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日本女子テニス10人目となるWTAツアー優勝者・土居美咲インタビュー Part2

神仁司ITWA国際テニスライター協会メンバー、フォトジャーナリスト
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2015年10月に、女子ワールドテニスのWTAツアーで、二人の日本女子優勝者が誕生した。その一人が、土居美咲だ。彼女は、WTAルクセンブルク大会(ルクセンブルク、10/19~24、インドアハードコート)で、初のツアー大会決勝進出で、見事ツアー初優勝を果たした。日本女子では、10人目のツアー優勝者となった土居が、独占インタビューに答えてくれた。

第2回目では、土居に、2015年シーズンを振り返ってもらった。

――2015年シーズン、土居さんは、WTAランキング121位でスタートし、1月にITF香港大会(賞金総額5万ドル。ITF大会は、WTAツアーより一つ下のレベルの大会)でまず優勝。テニスの4大メジャーであるグランドスラム第1戦のオーストラリアンオープンでは予選2回戦で敗れました。どういう思いでシーズンをスタートしていましたか。

土居:あの時はトップ100に戻りたいという気持ちで、そして、グランドスラムの本戦に戻りたかった。

――15年シーズンには、予選11大会に挑戦して、11大会中5大会で本戦へ。オーストラリアンオープン、インディアンウェルズ、マドリード、ローマ(本戦1回戦)、ニュルンベルグ(本戦準々決勝へ)、バーミンガム(本戦2回戦へ)、スタンフォード(本戦2回戦へ)、トロント(本戦1回戦)、シンシナティ、ニューヘブン、北京(本戦表記がないのは予選敗退)。メンタル、体力、何がきつかったですか。

土居:きつかったですね。コーチの方針でした。クリスに代わってから、たぶんITF大会は、一つも出ていない。それこそウインブルドンも本戦のボーダーラインぎりぎりで、1アウトだったけど、ギリギリ入った。ウインブルドンの前に、私としてはポイントを稼ぎたい思いがあった。ローマやマドリード大会の同じ週に、ITF10万ドル大会があって、そっちも行きたいなと思ったけど、クリス的には、全然眼中にない感じで、とにかくトップの選手と戦って、得られるものが絶対あるということだった。上の選手を破った時の自信が、ものすごいものがあるから、そこだけを考えているという感じだった。今思うと、自分の意識が変わったので、上とやっても、いけるんだというのが自分でもわかったので、それはよかったと思いますね。例えば、ローマやマドリードは予選を上がって、やっと30ポイント。こんなにタフマッチを勝ったのに、ポイントが少ないと思うんですけど、ポイント以上のものが得られたと思うので、今に活かされている。体力的には大丈夫でした。

――2015年春のクレーシーズンから、クリスチャン・ザハルカコーチが、土居さんに帯同しましたが、なぜクリスと組んだんですか。どんなことを学びたいと思いましたか。

土居:4月ぐらいからです。クレーシーズンのちょっと前から日本に来て、(女子国別対抗戦)フェドカップの時に見に来て、クレー(土のコート)で練習をスタートした。タイミングがよかった。クリスからアプローチがあったんですけど、私もコーチがいない段階だったので、ウインブルドンまでトライアルでお願いしてみた。夏のハードコートシーズンから正式にお願いした。私の前に、クリスは、4年ぐらいエラコビッチ、ペトロバ、キングを教えていたので、いろいろな経験があるし、ツアーに詳しい。クリス自身の経験があるので、芯がしっかりしているというか、自分の意見がある時は、もちろん言いますけど、引っ張ってくれる感じはある。ツアーに精通しているので、練習相手のセットアップもしてもらえて、トップ選手とできる機会もすごく多いので、そういう意味で、練習からレベルアップできる。

今までのコーチもみんな勝ってほしいと思うし、あなたは勝てるよ言ってくれたんですけど、クリスは絶対的な確信があるような言い方をするんです。例えば、勝ってほしいではなく、いや、勝てるでしょっ、て。微妙な違いですけど、クリスは本当に信じ切っている。それを常に言われていると、自分も信じられるようになるというか、もちろん勝てる可能性はあると思っているんですけど、絶対勝てると信じる気持ちになった。それで、試合に臨むと違いますね。

――コーチとは、どんな課題に取り組んでいますか。

土居:技術的に、最初からずっと言われているのは、フォアハンドのスウィングスピードを上げろということです。(日本女子の中で、私は)速い方ですけど、もっともっとって。10%でもいいからボールの質を上げて、ボールの重さや速さを上げて、そのことによって、相手が少しずつ追い込まれていく。自分でもいいボールを打てている感触はありますし、力負けしなくなりました。

――ローランギャロス2回戦で、第7シードのアナ・イバノビッチに6-3、3-6、6-4、ウインブルドン1回戦で第17シードのエリナ・スビトリナに6-3、3-6、2-6、惜しい逆転負けが続き、トップ選手から勝ち切れなかった経験をどう振り返りますか。

土居:最初リードして、勝てそうで、勝ち切れなくて、あともうちょっとというのが、トップ10やトップ20の選手に対して多かったけど、間違いなく言えるのは、試合を競って負けはしましたけど、戦えているという事実はあるので、そこが自分にとっては、特にルクセンブルクではアドバンテージになった。ペトコビッチやヤンコビッチと戦う時に、試合前から負けていないというか、戦えると思って試合に臨んでいたので、すごく役に立っていた。負けはしたけど、経験にはなっていた。今は、気後れすることもなく、名前負けすることもないので、それが大きい。

――2015年USオープン2回戦で、第12シードのベリンダ・ベンチッチに7-5、6-7(3)、3-6、3回のマッチポイントがあって逆転負けした後、目を真っ赤にした会見で、この敗戦の気持ちの整理に時間がかかると言っていたが、どう整理しましたか。

土居:あの時の記者会見は、今までで一番気持ちが整理できていない状態で行った。しゃべりたくないというか、しゃべっちゃうと泣いちゃいそうな状態でした。悔しくて、ほぼネガティブなことしか言えなかった。自分としては、引きずっていないと思いますけど、逆の言い方をすれば、あの選手に対して、あそこまでプレーできたというポジティブなことをなるべく見つけようとして、なるべく切り替えようとした。

――東京、東レPPO、北京(予選1回戦)、リンツ(オーストリア)、すべて初戦負けが続きましたね。

土居:ベンチッチ戦の影響はなかったです。ただ単に、自分が下手くそでした。北京の試合の2日後、会場に残って練習していた時に、(左ひざの)テーピングなしで、すごく動けて、ボールに早い段階で入れて、いいボールが打てて、ちょっといい感じの練習ができた時があって、久しぶりにいいプレーの感じを思い出した。言葉では意識していましたけど、体で表現できて、テニスの調子が上向いた。結果としては、負けが続いていたけど、北京の練習の後、調子自体は上がっていて、練習では結構いいプレーができていた。全体的なプレーの質は良くなっていた。だから、ルクセンブルクでの1回戦が、ペトコビッチか~(タフドローだ)と思ったんですけど、結果が出てよかったですね。

――フィジカルへの取り組みの大切さを感じますか。

土居:私はそんなに強い方ではないので、トップとやり合うには、特に今はフィジカルが重要になっていると思う。トレーニングとして重要なのは、インターバル、アジリティ、短い時間で何度も繰り返す力がテニスには必要だと思うけど、それをコーチから言われる。やっていくごとに、体力を削られていく場面もあるので、そこは絶対的に必要だと感じますね。特に、今年は、初期動作を意識していて、ボールになるべく早く入れるように、1歩目を早く踏み出せるように、相手のボールに早く反応して、いいポジションに入れれば、ボールに負けないで強いボールが打てる。すごく意識してやっています。

――2015年のグランドスラムでは、ローランギャロスとUSオープンで、本戦初勝利。それぞれの勝利の意味は?

土居:やっぱり一つ一つ勝っていくのが目標でもあるので、1回戦を勝ったのは良かった部分もあります。グランドスラムになるとシード選手を倒していかないと上位にいけないので、2016年を見据えると、上位の選手に勝っていくことが、上のラウンドに行くことにつながる。2015年に戦って特に感じたのは、グランドスラムでの注目度が間違いなく高いので、いかに成績を残せるかが重要だと思うので、そこで戦っていけるようにしたい。グランドスラムの第2週に残ることが一つの目標というか、ステップアップにつながると思うので、そこで一つでも上に残れるようにしていきたい。

(Part3に続く)

ITWA国際テニスライター協会メンバー、フォトジャーナリスト

1969年2月15日生まれ。東京都出身。明治大学商学部卒業。キヤノン販売(現キヤノンMJ)勤務後、テニス専門誌記者を経てフリーランスに。グランドスラムをはじめ、数々のテニス国際大会を取材。錦織圭や伊達公子や松岡修造ら、多数のテニス選手へのインタビュー取材をした。切れ味鋭い記事を執筆すると同時に、写真も撮影する。ラジオでは、スポーツコメンテーターも務める。ITWA国際テニスライター協会メンバー、国際テニスの殿堂の審査員。著書、「錦織圭 15-0」(実業之日本社)や「STEP~森田あゆみ、トップへの階段~」(出版芸術社)。盛田正明氏との共著、「人の力を活かすリーダーシップ」(ワン・パブリッシング)

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