北朝鮮も憧れた高倉健「新幹線大爆破に感動」
北朝鮮がハリウッドを敗北に追い込んだ
映画制作会社ソニー・ピクチャーズ エンタテインメントは17日、金正恩氏のパロディ映画「インタビュー」の公開を中止することを発表したが、大きなきっかけは、サイバーテロだった。
サイバーテロを起こした「Guardians of Peace(GOP=平和の守護者)」と名乗るハッカー集団は、「ザ・インタビュー」の公開中止を要求し、ハリウッド職員4万7000人と未公開映画の情報がハッキングされた。
米連邦捜査局(FBI)は、GOPのサイバーテロの裏に北朝鮮が糸を引いているとの結論を下しているが、確固たる裏付けはいまのところない。いずれにせよ、北朝鮮がハリウッドを屈服させた形だ。
ところで、テロと聞いてふとある脱北者との話を思い出した。彼は、北朝鮮でテロに関する日本映画を見たというのだ。
高倉健さんのファンが北朝鮮にいた
「軍隊に所属していたころ、外国映画を見る講義があるんだが、すっごい面白い日本映画を見たんだよ。人生に敗北して絶望を感じた男達が、電車に爆弾を仕掛けて乗客を人質にしてカネを要求する。なんていうタイトルだっけなぁ・・・」
電車と爆弾というキーワードでピンと来た。健さんが主演した「新幹線大爆破(1975年)」だ。
幸運にも映画を見ていた筆者が映画のタイトルと詳細を説明すると、彼は、大きく頷きながら熱く語り始めた。
「それだよ!『資本主義社会のテロとは何か?』という講義(!)のなかで見たんだよ。犯人と事件を防ごうとする警察、鉄道会社との攻防が、実にスリリングに描かれていて見ていた他の軍人たちも興奮したよ」
脱北者の話をきっかけにDVDを入手して、あらためて見るとなかなかよくできた映画だ。
あらすじはこうだ。倒産寸前の町工場の社長と売血で生活していた失業者、そして元全共闘活動家の男達は人生に絶望を感じ一発逆転を狙ってテロを企む。3人は、走っている新幹線が、一定のスピードに落ちると起爆する爆弾を新幹線に仕掛けて、国家に身代金を要求する。
一部、新幹線が走るシーンはミニチュアでCG全盛期の今から見ると、少々作り物感はぬぐえないが、なかなかスリリングに仕上がっていて、製作側の工夫と演出の妙が光る。
任侠俳優として名声を高めていた健さんが演じたのは、真面目な町工場の社長だ。暗い工場で油にまみれて働くその姿は、任侠俳優とは違った味を出していた。
余談だが、高倉健さんは、同時期、「ゴルゴ13」の実写版でデューク東郷を演じている。故人には失礼だが「新幹線大爆破」と違って、こちらは観ていて大変疲れる映画だった。
国家と闘う寡黙な高倉健さんに「革命精神」を感じた
「新幹線大爆破」には、高度成長期に対する批判も暗にこめられているという。
経済成長から脱落した「負け組」3人が、鉄道テロを犯すことで国家と社会に復讐する――ある意味、昨今の日本で頻発する「負け組」犯罪にも通じる。
先述の脱北者は、映画を振り返って語った。
「寡黙で真面目な主人公の男(健さん)や資本主義の犠牲者たちが、鉄道テロで国家にケンカを売る。犯罪であることに間違いはないのだろうが、なんというか革命精神のようなものを感じたね」
「人命を優先しながらテロを阻止しようとする鉄道会社社員(宇津井健さん)の責任感にも、自分の持ち場を命がけで守る軍人として純粋に感動したなぁ」
北朝鮮の軍人さえも感動させた健さんの熱演。生前の故人に是非、聞いてほしかったエピソードだ。
「健さん、あなたの熱演には北朝鮮の人も感動したんですよ」と。