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正恩氏の実母が在日朝鮮人という「不都合な真実」

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
1973年来日時の高ヨンヒ
1973年来日時の高ヨンヒ

金正恩氏の実母は在日朝鮮人

1月8日は、北朝鮮の最高指導者金正恩第一書記の誕生日だ。今年のカレンダーで「祝日」になっていないが、北朝鮮国内では公然たる事実となっている。

デイリーNKジャパンの北朝鮮内部情報筋によると、祝日にすれば北朝鮮国民が「特別配給」や「贈り物」を期待するが、当局にとってはそれが大きな負担になることから祝日にしなかったという説もある。

金日成氏から三代続く世襲政治は、もはや社会主義体制というより封建体制、王朝体制であり、日成氏を始祖とする「白頭の血統」が今の金正恩体制の拠り所となっている。金正恩体制が目指す先にあるのは「李氏朝鮮」ならぬ「金氏朝鮮」か。

しかし「白頭の血統」を強調すればするほど、そこに隠された最大のアキレス健も浮かび上がってくる。

正恩氏も与正氏も元在日朝鮮人帰国者の高ヨンヒ(高英姫)が実母だからである。

白頭の血統に潜む不都合な真実

高ヨンヒが大阪鶴橋生まれの在日朝鮮人であることは既に知られている。一時期、高ヨンヒの出自に関しては「プロレスラー高太文の娘」という説が流れていたが、この説は完全な誤りである。デイリーNKジャパンの独自取材によって彼女は高京澤(コ・ギョンテク)の娘であったことが明らかになった。

高ヨンヒの日本での朝鮮名は「高姫勲」で日本名は「高田姫」だったが、北朝鮮へ帰国後「高ヨンジャ」と名前を変え、最終的に「高ヨンヒ」の名前を使用することになる。1973年には万寿台芸術団の舞踊家として来日している。

冒頭の写真は本紙が公演スケジュールを全て終え、新潟から北朝鮮へ帰る時に撮影された貴重なスナップ写真である。

高ヨンヒに関しては2012年に労働党幹部向けに配布された「記録映画」が北朝鮮当局によって回収する騒ぎがあった。金正恩の母親の偶像化を目的とした記録映画だったが、一般住民にまで出回り「不都合な真実」が広まることを北朝鮮当局が恐れて回収に乗り出した。

「不都合な真実」とはまさに「白頭の血統の頂点に君臨する金正恩同志には在日朝鮮人帰国者の血が流れている」ことだった。

それだけではない。高ヨンヒの父親・高京澤は、戦時中陸軍管轄の工場で働いた。これは北朝鮮の尺度からすれば「親日派」になる。戦後は日韓を往来する密航船で大もうけし何人もの愛人を囲ったが、北朝鮮からすればこの経歴も許しがたいものだろう。

筆者が昨年6月に訪れた中朝国境で数人に高ヨンヒのことを聞いてみたところ、皆が「元在日朝鮮人帰国者」であることを知っていた。つまり、偶像化を進めるための記録映画が「地雷」を踏んでしまったわけだ。

2012年の記録映画回収騒ぎ以後、高ヨンヒに関する話は一切出て来ない。彼女の存在を際立たせれば際立たせるほど、白頭の血統の正当性が揺らぐからだろう。

しかし北朝鮮体制の行方を左右する正恩氏と与正氏兄妹が、在日朝鮮人である高ヨンヒから生まれたことは逃れられない「事実」である。この二人が自らの出自を受け入れる覚悟があるのか、それとも憎んでいるのか、是非聞いてみたいものだ。

※高ヨンヒは一般的に「高英姫」と漢字表記されるが、これは誤りである。韓国語表記の「ヨン」は二種類あって高ヨンヒの場合は「英姫」にならない。当時の北朝鮮では既に漢字を使っていなかったために漢字名は不明であるが、彼女が舞踊家だったことを考えると「踊姫(ヨンヒ)」も考えられる。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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