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止まらぬ北朝鮮兵士たちの中国への逃亡…彼らの飢えと核開発は負の相関関係にある!!

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

デイリーNKは22日、中国・丹東の情報筋を通じ、北朝鮮の平安北道新義州(シニジュ)市の黄金坪(ファングムピョン)から現地に脱北した北朝鮮の兵士2人のうち1人が、中国人民解放軍に拘束・連行される場面の写真を入手した。

脱北兵士は国境警備隊の所属で、拘束された当時、銃などの武器を携帯。中国人女性を人質にとって抵抗したとされる。情報筋はその時の様子について、生々しい様子を伝えてきた。

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2人は武装した状態で脱北したこともあり、丹東市公安局では重大事案と見なして大々的な捜索に乗り出した。丹東市内には指名手配書が貼りだされた。デイリーNKが入手した手配書の写真には、兵士の詳しい個人情報が書かれていた。

中朝国境地帯の中国側では脱北兵士による強盗殺人が相次いで発生している。昨年末にも、吉林省延辺朝鮮族自治州の和龍県で脱北兵士が食べ物欲しさに老人4人を殺害する事件が起きたばかりだ。こうした事件が多発するのは、朝鮮人民軍の軍規が乱れ切っているからにほかならない。

朝鮮人民軍に所属していた脱北者は次のように語る。

「徹底的に体制への忠誠心を点検されて選抜された国境警備、それも下級兵士が銃を持って脱北したのは、警備隊全体がそれだけ規律が緩んでいるからだ」

ではいったい、どうしてそこまで規律が緩んでしまったのか。それは上層部が食料もろくに配給せず、兵士たちが飢餓状態にあるからにほかならない。

韓国政府当局者は4年ほど前、「空腹に耐えられず南にきた」という脱北兵士の体格を見て驚いた。前年まで前線勤務をしていたという21歳のその若者は、身長1メートル54センチ、体重は47キロに過ぎなかった。

もちろん、体格の小さな人はどの国にもいる。しかし北朝鮮の場合は、それが平均化してしまっている現状がある。その証左として、朝鮮人民軍が金正恩氏の直接の指示を受け、兵士たちの携行装備の軽量化に取り組んでいるとの情報がある。

食糧事情の若干の改善が伝えられる北朝鮮だが、食べ物を入手するには市場などでの商売に精を出し、現金を稼がなければならない。しかし規則に縛られている兵士たちは商売もままならず、追いつめられるまで飢えてしまう。

そんな状況では、まともに戦争などできるはずもないが、だからといって「安全」とは言えないのが北朝鮮の厄介なところだ。

兵士たちの飢餓を放置している北朝鮮の支配体制は、己の保身を図るため、国民生活の安定に費やすべき資源を無謀な核開発につぎ込んでいるのである。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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