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金正恩センスの制服を「ダサい、人間の価値が下がる」と無慈悲にけなす、北朝鮮ティーンエイジャーの可能性

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

4月1日から、北朝鮮の学校も新学年度を迎えている。朝鮮中央通信はこの日、「全国の大学、専門学校、高級・初級中学校、小学校で始業式に続いて初の授業が行われた」と報じ、娘の成長を喜ぶ保護者の次のような声を紹介した。

「西城区域上新初級中学校の新入生オ・スヒャンの母であるソン・ウンビョルさんは、今や堂々たる中学生だと威張りながら(原文ママ)校庭に入る娘を見ると、無料義務教育の恩恵でこの国の息子、娘の夢と希望、才能を実現してくれる社会主義制度のありがたさに目がしらが熱くなる、娘を立派に育てていつも5点(満点)だけを取るようにしたいと述べた。」

ここで述べられているように、教育にかかる費用は制服代から教材費まで何から何まですべてタダ、というのが北朝鮮の自慢である。

もっとも、かつてはそういう時期もあったが、最近の実態はだいぶ異なる。この間の経済難のせいで、制服の配給が止まったり無料から有料になったりと、制度がコロコロ変わっているのだ。

しかし今年、金正恩氏は若者たちのハートをつかもうとの考えからか、制服デザインの向上にえらく力を入れている。

北朝鮮の対外向け週刊紙、統一新報は2月、新しい制服のデザインを公開している。同紙によれば、新しい制服は政府機関や美術大学のコンペを経て選ばれたもので、金正恩氏が生産現場を視察するなど、いわば“肝いり”のデザインとなっている。

ところが、当の学生たちの間で、その評判は芳しくない。

デイリーNKは北朝鮮における「イマドキ10代おしゃれ事情」を知るため、昨年10月に脱北したリ・チョルフン君(仮名)にインタビューした。チョルフン君は、脱北前まで、南浦(ナンポ)市の高級中学校(高校)に通っていた。

―2月に北朝鮮が新しく制服を発表したけど、見てどう思う?

「色は明るくなったけど、やっぱりダサいかなぁ。元々、制服の色は濃紺だけど、男子も女子も「黒色の制服」を好みます。特に、男子は明るい色を嫌がりますね」

―制服のシルエットとかは?

「ズボン太すぎ(笑)。ルーズフィットでダメです。北朝鮮の男子も中3になれば外見に気を遣います。細身のズボン、いわゆるスリムフィットを履きたがりますよ」

―国や学校から配給される制服を着なければ学校で怒られるんじゃないの?

「配給制服は、嫌でも無条件購入です。でも、それを着るか、着ないかまではさすがに学校側も取り締まれないです。あんなダサい制服を着たら「人間の価値が下がる」とまで言われるぐらいですから(笑)」

ちなみにわが編集部は、 チョルフン君の語った「スリムフィット」スタイルでキメた北朝鮮男子の写真を入手している。

チョルフン君はほかにも、女子のファッションアイコンや「男子は正恩ヘアを強制される」説の真相などについて赤裸々に語ってくれた。

いずれにしても正恩氏は、北朝鮮の未来を担う子供たちの「人間の価値」を下げないよう、もう少しファッション・マーケティングに気を使うべきだろう。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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