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なぜか「不動産投資」がブームの北朝鮮…しかし「金正恩ブランド住宅」が不人気なワケとは?

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
2014年5月に平壌で起きた「マンション崩壊事故」で住民に謝罪する担当責任者

北朝鮮国内で、不動産投資が活発化している。

主役は、「ドンジュ(金主)」と言われる新興富裕層である。ヤミ市場などでの商売で資金を蓄え、日本で言うところの「金融ブローカー」として財をふくらませたドンジュたちは、従来から個人住宅の取引、運輸業などのビジネスに関わってきた。

彼らは北朝鮮国内のありとあらゆる不動産に投資しているが、最近では故金正日氏の「護衛部隊(親衛隊)」が使っていた建物までも購入したとの話まで聞こえてきている。

北朝鮮では住宅や不動産は国の所有物だ。私有財産ではないため、本来は「取引」自体が違法である。

しかし、国家が建設資金の不足などにより、新興富裕層など個人の投資に頼ってマンション建設に乗り出すケースも増えており、従来の仕組みが形骸化しているのだ。

最近では、北朝鮮の新義州(シニジュ)市で建設中のマンションが3万ドルで取引されるなど、本来ありえなかった活気が不動産市場に満ちている。

そんな中、金正恩氏の指示で昨年10月に建設された「金策総合工業大学教育マンション」の入居率が半分以下であることが明らかになった。

その最大理由は「電力不足」だ。エレベーターが満足に動かず、給水ポンプも満足に作動しないため、高層階の住民たちはしょっちゅう、重い荷物を持って20階分もの階段を上り下りしなければならない。

金正恩氏は、見た目が派手な高層マンション建設で「人民愛」を宣伝しようとしているのだろうが、まったく裏目に出ているわけだ。

ちなみに、来るべき「北朝鮮の変化」に賭けてみる気があるなら、海外の投資家にも「北朝鮮マーケット」に参戦するチャンスはある。

というのは、中国側の国境都市である丹東でも、2009年あたりから不動産ブームが起きていたからだ。それが最近では、北朝鮮の変化が想定以上に遅く、さらに核実験や張成沢氏の処刑以降、中朝関係が冷え込んだことから投資が停滞気味だという。

ということは、丹東の物件価格は今が「底値」の可能性もあり、いずれ上昇に転じることが無いとは言えないだろう。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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