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金正恩氏が極太ズボンで部下を殺す日

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
現地視察する金正恩氏(参考写真)

金正恩氏が、部下の「ズボン」にブチ切れた。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)によると、ある現地指導に同行した崔龍海(チェ・リョンヘ)氏が、正恩氏と同じズボンを履いていたが、これが逆鱗に触れてしまった。崔氏は公衆の面前で激しく叱責され、それだけでなくズボンを履き替えさせられたという。

金正恩氏の激怒といえば、今年6月のスッポン工場での激怒が記憶に新しい。正恩氏はスッポン養殖工場の視察で激怒し、後に同工場の支配人が銃殺されていたことが明らかになった。視察時の様子は動画で公開されているが、確かに辺り構わず激怒している様子が見て取れる。

しかし、スッポン工場の激怒はさておき、なぜ正恩氏はズボンごときでブチ切れたのだろうか?

そもそも、北朝鮮の幹部の間では最高指導者の服装やスタイルをマネすることが、なかば慣行になっていた。正恩氏のあの特徴的な刈り上げスタイルは「覇気ヘア」もだ。覇気ヘアはマネどころか、一部では半強制化されており、「床屋へ行くと無条件で覇気ヘアにされる」という証言もある。

ならば、「同じズボンを履いたから」と言って激怒する理由はどこにもないが、正恩氏は、些細なことでブチ切れる性格だという説もある。

例えば、今年4月末に、玄永哲元人民武力相(国防大臣)が公開銃殺されたが、そのきっかけは「会議での居眠り」と言われている。もちろん、居眠り以外にも複数の粛清要因があったと見られるが、高射砲で人体が跡形もなく吹き飛ぶほどの方法から、正恩氏が相当ブチ切れていたことがわかる。

また、昨年10月には、正恩氏に異議を唱えたとして15人の当局者が処刑されたが、この時も、大口径の高射銃を乱射。人体を文字通り「ミンチ」にするやり方は、衛星画像によっても確認されているが、尋常じゃないブチ切れぶりだろう。

今回、同じズボンを履いたことにブチ切れたのは、「おべっかばかり使う幹部達を諫める意味合いもあったのでは?」という好意的な見方もあるが、筆者は、正恩氏が「真似られることを嫌った」と見る。

なぜなら、正恩氏はヘア・スタイルやファッションに相当なコダワリを持っていると見られるからだ。「俺のコダワリのズボンを真似るな!」といったところだろうが、そもそも正恩氏のあの極太ズボンを真似られるのか?という単純な疑問が頭をかすめる。

さすがに、今回の件では粛清までには至っていないようだが、たかがズボンと言えども、最高指導者の機嫌を損ねたら命取りになりかねないのが、今の金正恩体制である。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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