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北朝鮮のお正月が世界で最も「過酷」なワケ

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩氏

北朝鮮は、2015年から新暦の1月1日を、「正月」として祝うことになった。本来、三が日は連休のはずだが、様々な理由で行事や奉仕活動に動員され休むこともできず、せっかくの連休が潰されたことで、一般住民の間には不満が渦巻いている。

この時期、北朝鮮住民に課せられた最も過酷な動員は、肥料を作るための「堆肥戦闘」、つまり「人糞集め」だ。1人あたり驚くほどの量をノルマとして課せられており、正月早々、人糞を求めてさまよい歩かなければならない。

(参考記事:新年早々の「人糞集め」にガッカリする北朝鮮の庶民たち

毎年恒例の過酷な行事「人糞集め」の動員から免れても、町の清掃などに無理矢理駆り出される正月の動員はまるで、終わらない「罰ゲーム」のようだ。

(参考記事:夢破れて「人糞集め」…えこひいきに北朝鮮住民も不満

また、1月は「新年の辞」の集中学習期間だ。学校や職場で、9000字もある「新年の辞」を丸暗記しなければならない。全文をそらんじる大会やクイズ大会などの準備もあり、仕事も勉強も完全にストップしてしまう。

(参考記事:金正恩氏「新年の辞」に北朝鮮庶民から不満の声

大会で優秀な成績を収めた人は「模範」として大々的に持ち上げられる。一方、成績が悪ければ、今年1年間は生活総和(総括)の時間に責め立てられる。なかには、「ちゃんと学習しろ」と言われ「居残り」をさせられる人すらいる。

北朝鮮当局が、こうした学習を住民に強制するのは、体制の忠誠心を高めるためだが、 既に形骸化しつつある。多くの住民が、「論語読みの論語知らず」のように暗記し、身についた「傾向と対策」で解説を付け加え、そつなくこなすことだけが目的となっている。

さらに、政治講演の時間には、バレないように内職をしたり、こっそりおしゃべりし、居眠りをする。総和では、相互に批判をしなければならないが、批判する「ネタ」すらも、「ちょっと批判させてもらっていい?一杯おごるから」などと、酒やタバコで貸し借りする。つまり、「オレはお前のこういう点を批判するから、お前はアイツのああいう部分を批判することにしよう」などと、あらかじめ筋書きを決めておくのだ。

人糞集めで過酷な動員を強いられる住民は、当局の思想教育に面従腹背で対処する。これが、北朝鮮社会の現状だ。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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