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国連が北朝鮮の「人権犯罪」「虐殺事件」の証拠集めを始めた

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
朝鮮人民軍

国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)が韓国・ソウルに設置した北朝鮮人権事務所が、脱北して韓国に居住する人々から聞き取りを始めている。何を調べているかと言えばもちろん、北朝鮮の体制による人権犯罪についてである。

昨年6月に開設された同事務所の役割は、北朝鮮の人権状況を監視、記録し、証拠を保存することだ。

北朝鮮の人権問題を担当する国連のダルスマン特別報告者は3月に開かれた国連人権理事会で、北朝鮮の指導者を「人道に対する罪」に問う可能性を指摘しながら、この問題の国際刑事裁判所(ICC)への付託にも言及。理事会はこれを受けて、法的手段を探るための専門家グループの立ち上げを決議した。

ソウルの人権事務所が集める証拠はもちろん、ここに生かされることになるだろう。

北朝鮮の体制による人権侵害がいかに凄惨なものであるかは、「北朝鮮における人権に関する国連調査委員会(COI)」の最終報告書(以下、国連報告書)に収められた数々の証言からもうかがい知ることができる。

(参考記事:「まるで公開処刑が遠足のようだった」…北朝鮮「人権侵害」の実態

それでも、この報告書が人権侵害のすべての側面を網羅しているわけではない。北朝鮮では、人権侵害を通り越した虐殺事件や、ムリな工期設定による大規模な労働災害なども起きたとされており、そうした出来事については、複数の脱北者の証言を総合しなければ全容を描くことができない。

こうした事例は、いまだ国際社会で広く知られるには至っておらず、情報が共有された時の衝撃は相当に大きなものになるだろう。

もちろん、北朝鮮は強く反発するだろうが、いかに憤ったところで、すでに起きた事実は消すことができない。北朝鮮と日米韓などとの対立が深まることになれば、私たちはその分、金正恩体制の存続は決して許容できないのだという真実に近づくことになる。

(参考記事:北朝鮮「核の暴走」の裏に拷問・強姦・公開処刑

(参考記事:金正恩氏が「暴走」をやめられない本当の理由

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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