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「外部情報の流入で北朝鮮を変化させる」…米国務次官補インタビュー

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩氏

デイリーNKと韓国の対北朝鮮ラジオ「国民統一放送」は、今月10日に非公開で訪韓したトム・マリノフスキー米国務次官補(民主主義・人権・労働担当)との単独インタビューを行った。昨日に続き、その主な内容を紹介する。聞き手はイ・グァンベク国民統一放送代表。

同次官補は、北朝鮮への外部情報の流入を促すことが、朝鮮半島での平和を実現する上で重要だと指摘している。確かに北朝鮮には近年、韓流ドラマやハリウッド映画の映像ソフトが大量に密輸されている。それらは急速に一般国民の間に拡散し、国家の政治宣伝を骨抜きにしている実態がある。

――あなたは、北朝鮮に外部世界の情報を流入させる重要性を繰り返し指摘しているが、なぜそれが必要だと考えるのか?

全世界のすべての人々は好奇心を持っている。何かを知りたいということは人間の本能だ。私も北朝鮮での生活について知りたいと思っている。北朝鮮の人々も同じように、米国、韓国、日本、欧州など他の国に住む人々がどのように暮らしているかを知る機会を持つべきであり、知ることができなければならない。

だから、外国の映画や本を見たり、外国の人々と一緒に歴史を学んだり、自分の国が犯した間違いや成し遂げた成果について議論できなければならない。北朝鮮の政権が犯した最も大きな罪のひとつは、北朝鮮の人々から、外の世界のことを知り、知識を得る機会を奪ったことだと思う。

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ところが幸いなことに、最近の北朝鮮当局は情報の管理に手を焼いているようだ。

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北朝鮮においても、ますます多くの人が携帯電話を使うようになり、タブレットPCを使って映画を見るようになったからだ。ネットへの接続もいずれ可能になるだろう。

我々としては、このような変化を奨励するものであり、そのことが、平和を実現して紛争を終結させるという我々の目的に適うものだと思っている。

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――最後に、今も息を潜めてこの放送を聞いている北朝鮮のリスナーに励ましと慰めのメッセージを。

北朝鮮の人々が私のこのような話ですら、息を潜めて聞かざるをえない事実が非常に悲しい。いつかは誰も恐れることなく、自由に互いに会えるようになることを望む。

その時が来れば、皆さんが北朝鮮でどのように生きてきたか聞いてみたい。同時に、米国についての質問も皆さんから受けてみたい。たとえその質問が米国に対して非常に批判的なものであっても、そのような機会を通して米国について話すことができたらと思っている。

私はこの数年間に、多くの脱北者と会った。脱北という大変な決断をし、今では韓国や米国などで新たな生活を送っている人々だ。彼らは困難な経験を何度も繰り返し、その多くがまともな教育を受けられないなど不当な経験もした。

しかし、彼らは私が会った中で最も勇気ある人々だと断言する。苦しい生活を送り、戦って生き抜いてきただけに、米国や韓国で楽をして生きてきた人々より再起する力がはるかに優れており、クリエイティブで、多くの才能を持っている。

そして、政治的抑圧に耐え、自由を奪われたからこそ、脱北者は米国や韓国の人々より自由の価値をより痛切に感じている。

脱北後の生活は苦しいことがないわけではないだろうが、彼らならではの強味も多いだろう。したがって、もし北朝鮮が今よりも自由になるなら、そして後日、朝鮮半島が統一されたら、北朝鮮の人々が世界で最も成功するのではないかと、そんなことを想像する。多くの困難と戦いを通じ、多くを体得したのだから、それは可能なことであると確信している。

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デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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