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「最強の制裁」から半年、金正恩氏は追い詰められているのか?

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩氏

北朝鮮の4回目の核実験と事実上の長距離弾道ミサイルの発射に対し、国連安全保障理事会が「史上最強」と言われる制裁決議を下してから半年以上が過ぎた。国際社会は思惑通りに、金正恩党委員長に対し暴走の代償としての苦しみを強制できているのだろうか。

「誰も助けに来ない」

現状は、どうやらそうとは言えない様相を見せている。

韓国のCBSノーカットニュースは14日、現地の消息筋の話として、「平壌はむしろ制裁以前より物価と経済事情が改善した」と報じた。

この消息筋によれば、平壌地域の米の価格は1キロ当たり5千ウォン台を維持しており、為替レートも1ドル= 7900ウォンから8000ウォン台で安定。ガソリンは制裁前より値が下がる珍現象も見られ、車を購入する人も増加。納車まで1~2カ月待たされる状況だ。北朝鮮国内の情報はソースによりバラつきもあるが、こうした数字はデイリーNKが集めているデータとも一致する。

制裁の影響がまったく出ていないというわけではない。韓国のKBSは8日、中国との国境に近い地域に住む人の証言として、「生活必需品の値段が大幅に上がった」と伝えている。北朝鮮レストラン従業員や外交官など、外貨稼ぎ要員の相次ぐ脱北は制裁による揺さぶりの結果と言える。

しかしこれではまだ、一部の庶民と、外貨稼ぎの現場要員に負担が転嫁されているだけとも言える。

正恩氏は、今年に入り核実験を2回も行い、ミサイルを21発も発射した。そのほとんどは制裁後に行われたもので、さらに後続があると考えるべきだろう。

「経済制裁は効果が出るのに時間がかかる」との意見もあるだろうが、北朝鮮が独裁国家であるという事実を看過してはならない。指導者は選挙で再選される必要がないから、民主主義国家のようには民意を顧みる必要がなく、従って打たれ強いのである。仮に、一般国民が声を上げるようなことがあれば暴力で弾圧してしまう。

(参考記事:抗議する労働者を戦車で轢殺…北朝鮮「黄海製鉄所の虐殺」

そうなれば「誰も助けに来ない」と知っている庶民は、あえて声を上げようとはしない。

(参考記事:北朝鮮国民が「恐怖政治」について語った悲しすぎる本音

国連安保理は2回目の核実験を受け、新たな制裁を加えることになるだろう。それはそれで必要な措置だ。しかし、それで正恩氏の暴走が止まるとは考えない方がよい。

北朝鮮を民主主義体制に移行させることなしに、核の脅威を完全に除去することはもはや不可能だ。それには時間もコストも膨大なものを要する。そして今後もなお、「北朝鮮を追いつめているフリ」をしてお茶を濁すなら、そのコストはいっそう大きなものに膨らんでいくのだ。

(参考記事:北朝鮮「核の暴走」の裏に拷問・強姦・公開処刑

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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