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金正恩「武装ヤクザ部隊」の女性隊員はエリート志向

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩氏

北朝鮮で、暴動を鎮圧する部隊「機動打撃隊」の訓練が強化され、人々を不安に陥れているという。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。

戦車で轢殺

北朝鮮は一般庶民に対して、日常的に些細な事も含めて様々な弾圧を加えている。今年4月には韓流ビデオのファイルを保有していただけの容疑で女子大生を拘束し、さらには過酷な拷問まで加えた。女子大生を悲劇的な結末に追いやった。

(参考記事:北朝鮮の女子大生が拷問に耐えきれず選んだ道とは…

暴力による住民統治によって、北朝鮮の人々は権力に従順で、不満があっても口に出さないというイメージがあるが、必ずしもそうではない。実は、小規模ながら当局に対する抗議活動は各地で起きている。そのほとんどが経済闘争だが、北朝鮮の庶民たちも決して座して死を待っているわけではない。

韓国の国家情報院は先月19日、北朝鮮の一部地域で水道と電気が供給されないことに業を煮やした住民が、集団で市の労働党委員会に押しかけて、抗議する事態が発生したと明らかにした。具体的な数はわからないが、北朝鮮でも人々が公の場で抗議活動をすることは決して珍しくない。

ただ、北朝鮮当局はいつも黙っているわけではない。過去には、食糧難に苦しむ中で当局批判の声を上げた労働者たちを、戦車でひき殺すというとんでもない虐殺行為を働いている。

(参考記事:抗議する労働者を戦車で轢殺…北朝鮮「黄海製鉄所の虐殺」

その事件には軍が投入されたのだが、北朝鮮当局はさらに機動打撃隊を設立。背景には、世界各地で民主化運動の流れが拡がっていることに当局が神経をとがらせていることがあるようだ。訓練が強化されている状況は、多くの住民に目撃されている。

「この世の地獄」の拘禁施設

隊員は、拳銃、自動小銃、警棒型のスタンガンで武装している。本来の任務はデモや暴動の鎮圧だが、公開銃殺の場に軍用犬を連れて集団で現れることもあり、人々を恐怖の渦に陥れている。

咸鏡北道(ハムギョンブクト)の情報筋は、機動打撃隊の訓練がかつてなかったほど強化されており、男性隊員のみならず、女性隊員まで寒空の下で格闘技訓練、それも暴徒を鎮圧するレベルを超え、殺人訓練まがいのことを行っていると明かす。地元住民は「人民を無慈悲に踏みにじる武装ヤクザの訓練だ」と口々に非難しているという。

ちなみに女性隊員の比率は全体の10%ほどで、ほとんどが地元ではなく平壌出身だというが、それには理由がある。

地元出身の隊員だと、抗議活動に参加している親兄弟や友達を鎮圧するのに躊躇いが出るからだ。沖縄の米軍ヘリパッド建設現場で、抗議活動に参加していた芥川賞作家の目取真俊氏に対して、「土人」と暴言を吐いた機動隊員が、沖縄県警ではなく大阪府警所属だったのも同じ理由からだ。つまり、世界中どこでも抗議活動の鎮圧に他郷の人員を使うのは「基本中の基本」なのだ。

仮に大規模な暴動が起き、この機動打撃隊が出動する事態となったらどうなるのだろうか。極めて大規模で組織的な暴動でない限り、残念ながら鎮圧されるだろう。そして、鎮圧過程で拘束された住民らには「この世の地獄」と称される拘禁施設が待っている。

(参考記事:北朝鮮、拘禁施設の過酷な実態…「女性収監者は裸で調査」「性暴行」「強制堕胎」も

ちなみに、この機動打撃隊は、除隊後に各道の人民保安局政治大学に入れる特権が与えられるエリートコースだ。そのため、少なくとも300万北朝鮮ウォン(約3万6000円)のワイロを支払わなければ入れないという、狭き門でもある。

金正恩体制は、こうした「アメ」と「ムチ」をもって、人々を支配しているのだ。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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