Yahoo!ニュース

海外ドラマの「入浴シーン」が変える北朝鮮国民の意識

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩氏

米国の有力シンクタンク・戦略国際問題研究所(CSIS)が運営する北朝鮮情報サイト「ビヨンド・パラレル」は12日、北朝鮮国民の10人中9人が少なくとも月に1度は外国から流入した情報に接しているとの調査結果を掲載した。

調査は、北朝鮮に在住する36人を対象に行われたという。それによると、このうち6人は毎日、12人は週に1度、15人は月に1度、外国の情報を見ているという。

女子大生も拷問

サンプルの数が少ないような気もするが、海外情報が流入しやすい中朝国境だけでなく、平壌を含む10カ所で分散して調査を行った点は評価できる。もちろん、この手の調査に北朝鮮当局が協力することなどあり得ず、極秘で行わなければならない。露見すれば、関係者は処刑や政治犯収容所送りなどの厳罰を免れないだろう。

(参考記事:謎に包まれた北朝鮮「公開処刑」の実態…元執行人が証言「死刑囚は鬼の形相で息絶えた」

この調査で興味深いのは、回答者のうち32人が外国から流入した情報は有用であると答え、さらに30人が、そうした情報が自分の人生に大きな影響を与えていると答えたことだ。

彼らがどのような外国情報を見ているかは詳らかでないが、おそらくは言語を同じくする韓国から流入した情報の比率が高いと思われる。中でも、最もよく見られているのは韓流ドラマであるはずだ。

(参考記事:北朝鮮の女子大生が拷問に耐えきれず選んだ道とは…

ある脱北者の女性が語っていたのだが、韓流ドラマを見て最も衝撃的だったのは、登場人物たちが入浴したりシャワーを浴びたりする場面だったという。電気も燃料も足りない北朝鮮の田舎では、風呂に入るのも一苦労である。それなのに韓流ドラマの登場人物たちは、熱い湯を大量に、文字通り「湯水のように」使ってシャワーを浴びている。

「私あんな生活をしてみたい!」

このような欲求を覚えて以降、それは日増しに強くなり、遂にはどうにも抑えられなくなったという。

北朝鮮のような最悪の思想統制国家にあっても、人間は、人間らしさを求める欲求を失うことはないのだろう。だからこそ、北朝鮮の人々は拷問や処刑のリスクを冒しながら、外国の映画やドラマを見ることを止めようとせず、一部の人々は命がけで脱北を試みるのだ。

とりわけかの国の女性たちは、男尊女卑の悪習もあって、人権面で過酷な状況に置かれている。近年、脱北者の大部分は女性で占められているのは、外国情報から受けるインパクトが、男性に比べて大きいものがあるのかもしれない。

(参考記事:コンドーム着用はゼロ…「売春」と「薬物」で破滅する北朝鮮の女性たち

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

高英起の最近の記事