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フェイスブック、批判回避が目的か? 匿名で利用できるアプリを準備中

小久保重信ニューズフロントLLPパートナー

米メディアの報道によると、米フェイスブックは、利用者が匿名で交流できるサービスのアプリを開発しているという。

同社はこのアプリを今後数週間以内に公開する予定。これを使うと、利用者は複数のハンドルネームを使って交流できるようになると米ニューヨーク・タイムズは伝えている。

米マッシャブルによると、例えば、同じ病気を持つ人同士が支援ネットワークをつくり、情報共有するといったことが可能になる。

またニューヨーク・タイムズは事情に詳しい関係者の話として、新アプリはそうした健康関連のコミュニティーにとどまらず、実名を名乗らないことが好都合な様々なサービスで効果を発揮すると伝えている。

規定を巡って騒動に、LGBTコミュニティーに謝罪

一方で米ウォールストリート・ジャーナルは、これは先頃騒動になった同社サービスを巡る問題への回答だと報じている。

フェイスブックは利用者に実名登録を義務づけている。使ってよいのは、運転免許証やパスポートなど身分証明書に記載されている名前。例外として別名を使うことも許されているが、実生活で使っている名前に限られる。

例えば仕事上で使っている旧姓やニックネーム。ニックネームの場合は、ロバートの代わりにボブ、マーガレットの代わりにメグといったように、本名と同様に扱われるものだけが認めらている。

この規定に基づきフェイスブックは先頃、ドラッグクイーン(女装パフォーマー)やLGBT(同性愛者、両性愛者、トランスジェンダー)などの実名を使わない人々のアカウントを停止した。

しかしこれに対し批判の声が上がった。「ユーザーには自分のアイデンティティを選択する権利がある」と主張する人などが異議を唱え、抗議運動に出たのだ。

その後、同社は謝罪し、実名登録のポリシーや本人確認規定の見直しを約束したが、まだ具体策は明らかにしていない。

実名はフェイスブックのビジネスに不可欠

なおウォールストリート・ジャーナルは、フェイスブックが開発しているとされる新たな匿名アプリは、こうした問題の解決策にはならないだろうと伝えている。

フェイスブックには、匿名性を保ったまま利用したいというユーザーが多くおり、そうした人たちは別アプリのサービスではなく、フェイスブック本体のサービスを利用したいと考えているからだ。

一方で、フェイスブックのビジネスは広告枠の販売。その根幹を成すのが利用者の実名と正確な個人データ。これにより広告主はターゲットを絞った効率的な広告が可能になり、フェイスブックには広告収入がもたらされる。

こうした事情があることから、フェイスブックはおそらく今の規定を変更しないだろうとウォールストリート・ジャーナルは指摘している。

フェイスブックが言う2つの理由

フェイスブックの最高製品責任者、クリス・コック氏は、ドラッグクイーンやLGBTの人たちに対する謝罪文で、フェイスブックが実名主義を貫く理由を2つを挙げていた。

1つは、他社サービスとの差異化。匿名のサービスや、ランダムな名前が使われるサービスが多くある中で、実名制はフェイスブックを特別なものにしているという。

もう1つは利用者保護。フェイスブックには偽アカウントが数多く存在し、その多くは、なりすまし、挑発、家庭内暴力、いじめといった行為・投稿を行うという。そうしたアカウントを排除し、利用者を守るためには実名制が不可欠だと同氏は主張している。

JBpress:2014年10月9日号に掲載)

ニューズフロントLLPパートナー

同時通訳者・翻訳者を経て1998年に日経BP社のウェブサイトで海外IT記事を執筆。2000年に株式会社ニューズフロント(現ニューズフロントLLP)を共同設立し、海外ニュース速報事業を統括。現在は同LLPパートナーとして活動し、日経クロステックの「US NEWSの裏を読む」やJBpress『IT最前線』で解説記事執筆中。連載にダイヤモンド社DCS『月刊アマゾン』もある。19〜20年には日経ビジネス電子版「シリコンバレー支局ダイジェスト」を担当。22年後半から、日経テックフォーサイトで学術機関の研究成果記事を担当。書籍は『ITビッグ4の描く未来』(日経BP社刊)など。

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