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誰でも配達人になれる「Amazon Flex」米国で開始 アマゾン、配達時間短縮とコスト削減狙う

小久保重信ニューズフロントLLPパートナー
アマゾンのジェフ・ベゾス最高経営責任者(CEO)(写真:ロイター/アフロ)

以前、米アマゾン・ドットコムが、一般の人々に業務を依頼する、クラウドソーシング型の配達サービスを計画していると報じられたが、同社はこれを実際に始めたようだ。

時給20ドルのオンデマンドワーカー

アマゾンのウェブサイトを見ると「Amazon Flex」と呼ぶプログラムが紹介されている。これは、一般の人に急ぎ便商品の配達を依頼する外注プログラムだ。

ここには詳細について書かれていないが、米ウォールストリート・ジャーナルや米シーネットなどの報道によると、このプログラムでは、自動車を持つ一般の人がアマゾンの専用アプリを使ってサインアップし、自分が配達可能な時間帯などを入力する。

すると、最寄りの商品集積所から商品を受け取り、顧客の住所に届けるよう指示されるという。配達には自分の車を使うことになる。

報道によると、アマゾンがこうした人々に支払う報酬は、おおよそ1時間当たり20ドルとのことだが、アマゾンのウェブサイトを見ると同18ドル〜25ドルと書かれている。

また、プログラムの参加者は1日のうちで、2時間、4時間、8時間の範囲で働く時間を選ぶことができ、翌日以降に働く時間を12時間まで設定することもできる。これについてアマゾンは「フレキシブルに好きなだけ多く、あるいは好きなだけ少なく働くことができる」と説明している。

届けるのは超急ぎ便サービスの商品

そして、こうした人々が運ぶのは、「Amazon Prime」の加入者向けに提供している超急ぎ便サービス「Prime Now」の商品。このPrime Nowは、注文を受けてから最短1時間で届けるというもので、その1時間配達の料金は7.99ドル、2時間配達の場合は追加料金がかからない。

アマゾンは、顧客満足度を向上したり、衝動買いをしやすくしたりすることで、売り上げ増を狙っているとシーネットなどは伝えている。同社はPrime Nowの商品配達にこれまでトラック便や自転車便などの外部業者を使ってきたが、こうした「クラウドソースト・デリバリー(クラウドソーシング型宅配サービス事業)」と呼ばれる仕組みを利用することで、高騰が続く配送コストを抑えたり、繁忙期の配達遅延を防いだりできるようになるという。

なお、Amazon Flexへの参加条件は、年齢が21歳以上で、自動車と有効な自動車運転免許証、Androidスマートフォンを持っていることなど。参加者には事前の身元審査があるという。現在は自動車の所有者に限定しているが、将来的は自転車や徒歩による配達も計画していると、同社は説明している。

またPrime Nowは、現在シアトルやニューヨーク、ダラス、アトランタ、ロサンゼルスなどで提供しているが、Amazon Flexの人員を募集しているのは現在シアトルのみ。そのほかの地域の募集については「まもなく始まる」としている。

「劣悪な労働条件」との批判も

ただ、こうしたビジネスモデルついては批判の声も上がっている。シーネットによると、オンデマンド雇用のような形態では労働者に十分な手当や福利厚生が与えられないとして、訴訟も起きているという。

また先頃は、次期米大統領選に立候補している民主党のヒラリー・クリントン前国務長官が、配車サービスの米ウーバー・テクノロジーズなどを「賃金搾取者」と糾弾したという。

こうした批判が相次ぐなか、生鮮食品の即時配達サービスを手がけるインスタカートや、バレットパーキング(駐車代行)サービスのリュクスといった企業は、請負労働者を正規従業員として雇い始めたと、シーネットは伝えている。

JBpress:2015年10月1日号に掲載)

ニューズフロントLLPパートナー

同時通訳者・翻訳者を経て1998年に日経BP社のウェブサイトで海外IT記事を執筆。2000年に株式会社ニューズフロント(現ニューズフロントLLP)を共同設立し、海外ニュース速報事業を統括。現在は同LLPパートナーとして活動し、日経クロステックの「US NEWSの裏を読む」やJBpress『IT最前線』で解説記事執筆中。連載にダイヤモンド社DCS『月刊アマゾン』もある。19〜20年には日経ビジネス電子版「シリコンバレー支局ダイジェスト」を担当。22年後半から、日経テックフォーサイトで学術機関の研究成果記事を担当。書籍は『ITビッグ4の描く未来』(日経BP社刊)など。

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