Yahoo!ニュース

身長差20cmの相手にヘディングで勝てるメッシ。史上最高フットボーラーの底知れなさとは。

小宮良之スポーツライター・小説家
ヘディングに挑むメッシ。(写真:なかしまだいすけ/アフロ)

「メッシは歴史上、最高の選手だ」

チャンピオンズリーグ準決勝2レグ、バイエルン・ミュンヘンの指揮官であるジョゼップ・グアルディオラは白旗をあげ、敵チームのエースへの賞賛を惜しまなかった。グアルディオラはかつてバルサ監督時代にメッシを覚醒させており、その指揮官の言葉には重厚な説得力がある。

この日、メッシはふらふらとピッチを漂っているように見えたが、一瞬のうちに試合を決めてしまった。先制点を奪われ、流れがバイエルンに傾く中、左サイドでネイマールがドリブルで持ち上がったボールを中央で受けると、右足でコントロール。その刹那、目の前のディフェンダーの逆を取っており、中央のスペースを作ると、そこに左足でパスを流し込む。走り込んだルイス・スアレスは再び中へ折り返し、ネイマールが押し込んだ。

まさにプレーの創造者というべきか。何気ないプレーに見えるかもしれないが、瞬間的にDFを籠絡してパスコースを作っているわけで、その精度も含め、信じられないプレーレベルだった。それを平然とやってのけるところに、メッシのメッシたる所以はある。

「メッシはクリスティアーノ・ロナウドのように力技でゴールを決める必要はない」

そう説明していたのは、FCバルセロナでドリームチームの伝説を作った名将ヨハン・クライフだ。

「メッシにはまず、生まれ持った速さがある。しかしそれは要素に過ぎない。彼は高い基本技術、緩急の変化、ポジショニングなどフットボーラーに必要なセンスに恵まれている。なにより、彼は対人プレーで常に相手の裏を取れる。相手と向き合ったとき、わずかな体重移動だけで体勢を崩して必ず優位に立っているのさ。結果としてどんな場面でもシュートコースが生まれ、ゴールのバリエーションが多くなり、相手ディフェンダーは止められない」

そして特筆すべきは、メッシが得点し、勝利するために自らに限界を設定していない点にあるだろう。例えば、「小さいから」という言い訳に甘えていない。身長160cm台にも関わらず、ヘディングの技術も究めている。

バイエルン戦、中央でいいポジションを取ると、二人のディフェンダーを引き寄せながら空中戦で競り勝ち、バックヘッドで裏のスペースへ。これを受けたルイス・スアレスが完全にフリーで持ち込み、ネイマールの得点につながった。20cm以上、背の高いディフェンダーをもモノともしなかった。

メッシはポジション取りとボールを当てる感覚を研ぎ澄ませ、ヘディングをも武器としている。2008-09シーズンのチャンピオンズリーグ決勝でも、小兵メッシは空中戦からも巧みに得点を奪った。後半70分、右後方からシャビが上げた正確なクロスボールに、彼は左サイドからペナルティエリア内に猛然と突っ込み、空中戦の名手ビディッチの背後を取ると、動物的な跳躍のヘディングで逆サイドに流し込んでいる。

どうすれば、ゴールできるか―。

メッシはそればかり突き詰め、本人も知らないうちに進化してきたのだろう。バルサの右サイドでコンビを組むブラジル代表サイドバック、ダニエル・アウヴェスが面白い証言している。

「ドリブルやボール技術の話をすれば、例えばスペイン代表のヘスス・ナバスはメッシと同じくらいのレベルにあると思う。しかし、メッシの方がずっと"大人"というのかな。彼は一つのプレーに満足しない。シュートもパスも、ヘディングだって、FKだって、なんだってできる。完璧を目指すというのか、そのエネルギーが周りを巻き込み、物言わずとも中心になる。今や世界最高の選手と言えるだろう」

メッシが安定して最高のパフォーマンスができるようになった理由は、様々に説明される。例えば彼は大のお肉党で、ステーキやミラネッサ(カツ)が大好物だった。間食はコーラ、アイス、キャンディを大量摂取。しかし今シーズンは食事療法を取り入れ、9ヶ月で5kg減量することに成功した。これで筋肉系の小さな故障もなくなり、抜群の体の切れにつながったという。

しかし、こうした変化は英雄の逸話の一つに過ぎないだろう。

「プロ選手をやっている以上、調子のいいときも悪いときもあるものさ。でも、メッシは一喜一憂しない。たとえ辛辣で根拠のない批判を受けたとしても平然と受け止め、驚くようなプレーを見せてくれるのさ」

バルサのMFセルジ・ブスケッツは言っているが、その肖像は「世紀を飾るアスリート」というしかない。

「ボールが足下に入った瞬間、怖いものなんてなにもないんだ」

メッシはさらりと言ってのける。ピッチに立つ彼には、不可能なんてない。まるで息を吸い込んで吐くような自然体で、ボールをゴールに流し込むだけだ。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

小宮良之の最近の記事