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スウェーデンに勝てる理由。日本サッカーは弱小なのか?

小宮良之スポーツライター・小説家
コロンビアに攻め込む日本リオ五輪サッカー代表。(写真:アフロ)

スウェーデンは欧州王者として、今回のリオ五輪に出場している。Uー21欧州選手権が五輪の欧州予選も兼ねているのだが(欧州からは4ヶ国が出場)、決勝でポルトガルを破って覇者となった。もっとも、決勝のスタメン11人中、たった3人しか18人のメンバーに入っていない。

留意すべきは、Uー21欧州選手権は「開幕時点で21歳以下」という出場規定で2年かけて行われ、五輪はその1年後という点。五輪でメンバーが大きく入れ替わるのは必然だろう。主力選手の多くは年齢制限をオーバー(もしくはすでにフル代表に定着)、オーバーエイジ枠(OA)で入ったアレクサンデル・ミロシェビッチ、アブドゥル・ハリーリは当時のメンバーでどちらも24才である。

急造チーム。

それが今大会のスウェーデンの実像で、欧州王者の面影はないに等しい。

ディフェンスは4バック+ダブルボランチ、ゾーンディフェンスで対応する。組織だってはいるが、守備の強度は低い。中盤がフィルターの役目を果たせず、バックラインはスピードに欠け、動きが緩慢。裏に対する反応が著しく鈍い。ナイジェリア戦も、左サイドを中心に崩され、中央の陣形が撓み、そのギャップに次々と侵入され、失点を許した。GKアンドレアス・リンデのファインセーブがなかったら、大敗を喫していただろう。

一方、攻撃はビルドアップでの工夫にかけるが、前線までボールを持ち込めたときは侮れない。長身ツートップのミカエル・イシャク、アストリト・アイダレビッチがクロスに対して潰れながら、ロビン・クアイソン、ハリーリ、シモン・ティブリング、ムアメール・タンコビッチが2列目から殺到する。フィジカルインテンシティを武器にした直線的な攻撃は、大柄な選手が多いスウェーデンのお家芸とも言える。

スウェーデン撃破に秘策は必要なし

日本は、そのスウェーデンと決勝トーナメント進出を懸けて戦う。勝利が絶対条件。その上、コロンビアがすでに勝ち上がりを決めたナイジェリアに負けないとならない。他力本願である。 しかし五輪サッカーが23歳以下という育成年代の総決算である以上、勝利をもぎ取れるかどうか、そこに全力を投入することで、各選手は成長することができるはずだ。

では、日本はどこに活路を見いだすべきか?

「善く戦うものは、これを正に求める」

孫子は言うが、巧みに戦うものは戦闘に入る勢いによって勝利を得ようとする。指揮官の準備、用兵が求められる。乾坤一擲の気運を高めるしかない。

そもそも大会直前のブラジル戦で完敗した手倉森JAPANは、慎重になりすぎていた。

「我慢強く戦う」と戦いの方針を決めてしまい、過度の自重で硬くなっていた。結果、7時間前に現地入りしたナイジェリアに、勢いだけで序盤攻め立てられ、受け身に回った。先制点は左サイドで1対2の数的優位を作りながら、完全に突破され、ゴールを割られている。その後、シーソーゲームを展開する中で1点差に迫ったのは見事だったが、自らを窮地に立たせてしまった。

スウェーデンとチーム力を比較をした場合、4年間かけて作ったベストメンバーで挑める日本が怯むことはない。

FW浅野拓磨はこの大会中に少しでも横の駆け引きを覚えたら、縦に行くスピードは本当の悪夢を与えられるだろう。中盤の大島僚太、南野拓実の連係は初見だと、相手はプレースピードについていけない。コロンビア戦も二人は同点劇のキーマンだった(ただ、コロンビアがボランチにジェフェルソン・レルマを投入すると、大島の躍動は封じられた)。右サイドバックの室屋成はすべてのプレーが拙いが、集中力が高く、闘争心が豊富なことで急速の適応力を見せている。

そして流れをつかむには、各選手が与えられたポジションの役割を果たすことだろう。例えば遠藤航や井手口陽介らが闘志を漲らせるのは悪いことではないが、ボランチとしてはポジションを動かしすぎる。自分が動くのではなく、自軍を動かし、敵軍の動きを封じる、それが本来のボランチの仕事である。左サイドバックの藤春廣輝も同じで、あくまで守備に余力を残し、左サイドで仕事をさせないことに専念するべきだ。

五輪年代の選手は若く経験が少なく、自ずと状況の変化に適応できず、老練さに欠ける。それだけ不測の事態が起こりえる。もしフル代表のコロンビアが2-0とリードしたら、簡単に試合をクローズさせていただろう。W杯や欧州選手権と違い、五輪代表は試合のコントロールに甘さがあるのだ。

日本はその隙を突く形で健闘を示している。例えば10番の中島翔哉は後半途中までほとんど仕事ができないが、スペースが空き始めると、途端にそのスキルが出せる。試合展開に波がある五輪年代では、わずかな潮目が大きく状況を左右するのだ。

その点、試合の鍵を握るのはGK中村航輔かもしれない。中村は西部劇のガンマンのように、1対1やシュートで神懸かった"撃ち合い"を見せる。冷静沈着で、シュートストップの技術を出せる。かつてアトランタ五輪で奇跡的なセービングを見せた川口能活を彷彿とさせる。自らのセービングによって、日本に潮目をもたらせるGKと言えるだろう。

スウェーデン戦、日本は堂々と正面から戦っても勝機を拾える。策を放てるほど、したたかなチームでもあるまい(ナイジェリア戦は慣れない4-3-3で轟沈)。機動力の高さと細かいパスワークはアドバンテージ。4-4-2のミラーゲームで、各ポジションの選手が"対決"する。弱点はありあまるが、どうにか補い、上回れる部分もあるはずだ(マナウスで高温多湿によって極端に動きが鈍かったスウェーデンは、涼しくなるサルバドールで息を吹き返すだろうが)。

濃厚な90分間が、若い選手にもたらす影響は計り知れない。彼らはブラジルで懸命な戦いを見せている。ただ、それだけでは十分ではない。プロサッカー選手としては、強者と弱者の狭間にいる。

スウェーデン戦は、日本サッカーの分水嶺ともなるだろう。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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