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佐藤寿人、大久保嘉人が移籍。30才を過ぎたストライカーは終わりか?

小宮良之スポーツライター・小説家
サンフレッチェ広島から名古屋グランパスへの移籍が決まった佐藤寿人(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

先日、サンフレッチェ広島の看板FWだった佐藤寿人が、J2名古屋グランパスへの移籍を発表している。佐藤は12年連続二桁得点という偉大な記録を樹立したものの、今シーズンは出場機会の激減でわずか4得点だった。佐藤本人は、忸怩たる思いだっただろう。なぜなら、出場時間数では、日本人得点王の大久保嘉人、小林悠(川崎フロンターレ)を上回る得点率を叩きだしているからだ。

「ベテランといわれる年齢ですが、チームと共にまだまだ学びたい」

佐藤は謙虚に決意を語っている。34才になったストライカーは、新天地でどんな活躍を見せられるのか?

日本人FWは30才を過ぎて一人前

「30歳になったら下降線」

契約更改のニュースが飛び交う季節、そんな話が耳に入ってくる。寄る年波には勝てない。30才を超えて力が衰える選手もいる。単純なダッシュ力というか、瞬発力は落ちるかも知れない。十代の選手のように「化ける」可能性は乏しいだろう。

しかし、もし30才を一つのラインに契約更改に挑むなら、クラブの強化部など存在価値はない。年齢で契約を満了させるなら、誰にでもできる。用務係でも、事務員でも、数をかぞえられるなら事は足りる。代表監督までが「もっと若かったら」と苦虫を噛み潰したようになるのもどうかと思うが、スカウティングは年齢から見えないものを推し量るものだろう。

「前の選手(FW)はとくに、三十過ぎたら価値が下がる。やっぱりスピードが落ちたら使い物にならないから」。したり顔で言う「プロ」の強化関係者がいる。大した根拠もなく、選手が気の毒でならない。

ヨーロッパでは、30才半ばのストライカーたちが第一線で活躍している。スペイン、リーガエスパニョーラのルーベン・カストロ(ベティス)、アリツ・アドゥリス(アスレティック・ビルバオ)はどちらも35歳だが、それぞれリーグ戦で19,20得点と去年がキャリアハイだった。アドゥリスに至っては、ヨーロッパリーグで得点王に輝いた。スペイン代表にも復帰し、EURO2016にも出場している。

また、リバプールなどで活躍したフェルナンド・トーレス(32歳)は2009-10シーズン以来、リーグ戦で二桁得点がなく、「もう終わった」と囁かれていた。しかしACミランから古巣アトレティコ・マドリーに復帰すると、昨季(2015-16シーズン)は11得点を記録。「代表に呼び戻すべきだ」という声が沸騰したほどだ。

オーバー30で活躍するストライカーの例は、枚挙にいとまがない。

ドイツ、ブンデスリーガではラファエウ(ボルシアMG)、ヤン・フンテラール(シャルケ)、サロモン・カルー(ヘルタ・ベルリン)、クラウディオ・ピサーロ(ブレーメン)、アレクサンダー・マイアー(フランクフルト)らいずれも30才以上だが、昨シーズンは二桁得点を記録している。フランス、リーグアンの得点王は34歳のズラタン・イブラヒモビッチだったし、ポルトガルリーグの得点王ジョナス、トルコリーグの得点王マリオ・ゴメスも30代である。

そして日本人FWこそ、「30才を超えて一人前」という晩成型が実は多い。今シーズンの得点ランキングを見渡すと、日本人上位8名の内、6名が30才以上。残り2名も、小林が29才、武藤雄樹が28才だった。

中山雅史(アスルクラロ沼津)が初めて得点王になったのは30才を超えてからで、その2年後にも受賞している。大久保が初の得点王に輝いたのも31歳。以来、3年連続得点王を受賞し、今シーズンも日本人最多得点を記録している。川崎で風間八宏という監督に出会い、覚醒した。前田遼一(FC東京)は29歳で初の得点王、30才のときも連続で獲得。31歳でアルベルト・ザッケローニ監督の率いる日本代表の主力で全盛期を迎えた。

晩成するストライカー

冒頭で触れた佐藤寿も、30才にして初の得点王になっている。佐藤は小柄だが俊敏で左利き、プレー選択に躊躇がない。フィニッシュの動作が速く、得点を取る動きを連続できる。パスコースを確保しつつ、二人のDFの間に入るマークの外し方は秀逸。クロスやこぼれ球の道筋を見極め、叩く技術は衰えていない。敵を幻惑させる技は、むしろ老獪さを増している。

「30才を過ぎたら終わり」と言うよりも、「30才からが旬」と言えるだろう。

豊田陽平(サガン鳥栖)の証言も、それを裏付けている。

「若い頃はガムシャラにやっていて、もっと落ち着けばいいところで、やたらと焦っていたんですよ。不安や思い込みは判断を狂わせるだけ。経験を積み重ねて、状況に合わせての対処ができるようになりました。自分のゴールは誰でも決められる、と思われるかも知れませんが、そこにいられるポジション取りが大事で。それまでのイメージと駆け引きが持てるか、がすべてなんです。その過程で差が出せるのかな、と。30才になって、体調の変化はたしかに感じましたよ。でも、今までやってきたことを拠り所に、変化にも前向きに対応してます」

豊田は30才で4年連続15得点という記録を更新した。今シーズンは13得点で5年連続は惜しくも逃したものの、堅調さを示している。

<得点を取れるか?>

それは単なる走力やキック力では決まるものではない。ディフェンダーと駆け引きし、味方と呼吸を合わせられるか。そこでは、肉体的な速さ、強さがアドバンテージになることもあるが、そうした”力み”をそぎ落とした技量こそが、物を言うのかもしれない。

「ストライカーは生まれる。育てられない」

欧州や南米ではしばしばそう語られる。ボールの軌道を読み、呼び込み、叩く。それは単純なだけに誰にでもできる芸当ではない。生来的なセンスに近く、芸術家が色彩や比率を計算せずとも、感覚で判断できる異能に等しいだろう。それをストライカーは研ぎ澄ませるか。逆説的に言えば、この感性に恵まれない選手は、どれだけ若く運動能力に優れていても、ストライカーとして大成しない。

ゴールを奪う技能は、加齢によって精度が低くなることはある。肉体は疲労がたまりやすくなる。しかしある日を境に、忽然と消えてしまう類のものではない。

たとえ何歳になろうとも――。佐藤も、大久保もストライカーという"異端者"であることだけは疑いようがない。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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