失点を減らすにはフライよりもゴロを打たせろ。アウトの内訳で見る日本ハム、巨人、阪神の投手事情
ゴロよりもフライが点に絡む?
日本の少年野球ではフライよりもゴロを打てと教えられる。その理由はフライは「捕る」だけでアウトが成立するが、ゴロは「捕る」「投げる」「捕る」の3つの動作が必要だから出塁の可能性が高くなるというもの。しかし、セイバーメトリクスではゴロよりも長打になりやすいフライの方が得点を生むと考える。打球の得点期待値はゴロが−0.07、フライが0.10、ライナーが0.28という研究結果もあるらしい。
防御率3点以下の投手をゴロ派とフライ派に分けると
ゴロ派
金子(オ)、西(オ)、大谷(日)、スタンリッジ(ソ)、ディクソン(オ)、菅野(巨)、前田(広)
フライ派
岸(西)、牧田(西)
だいたい同じ
則本(楽)、大野(中)、山井(中)、メッセンジャー(阪)
こうして見ると防御率の優秀な投手にはフライよりもゴロを打たせる投手の方が多いことがわかる。
日本ハムの助っ人外国人投手はゴロ派オンリー
この考え方を最も重要視しているのが日本ハムだ。
リーグ優勝を果たした2006年、2007年、2009年は全てリーグトップの防御率だった。しかしこの期間、超強力な先発ローテーションを組んでいたかと言えばそうでもない。3年全てで防御率リーグトップ10に名を連ねているのはダルビッシュだけ。八木やグリンの好投もあったがむしろ好投手は他球団の方が多かった。圧倒的な投手が揃わなくても点を与えない、そのめに日本ハムが選んだ方法が田中、金子の二遊間で内野ゴロを確実にアウトにすることだった。田中は2007年から2009年まで全試合出場を果たし刺殺、補殺数は3年連続で二塁手リーグトップ。金子は遊撃手として2006年から2008年まで3年連続でリーグトップの守備率を誇り2人で数多くのアウトを積み重ねた。
田中は.335の自己最高打率を残した2010年オフに3年7.5億円(推定)の複数年契約を結んでいるが、この時点でプロ11年間の通算本塁打は34本。100試合以上に出場し打率3割を打ったのは2度目。打撃成績からは想像もつかない高待遇の裏にはその守備力でチームの根幹を支えて来た貢献があったからだ。現在でもその考え方が続いていることは助っ人外国人投手のデータを見れば明らかでメンドーサ、クロッタ、カーターはゴロアウトの割合が47.5%、60.2%、49.2%と非常に高い。昨季まで日本ハムに在籍していたソフトバンクのウルフもフライアウトの割合18.1%に対しゴロアウトは過半数の52.9%。チーム作りの方針が一貫している。仮に資金力が豊富にあったとしてもフライアウトの割合が40.9%の呉昇桓の獲得競争には名乗り出なかっただろう。
巨人と阪神では全く異なる傾向が
セリーグでもゴロ、フライの割合に注目すると興味深いことがわかる。
巨人はマシソンの投球はゴロアウト25.8%、フライアウト32.0%とややフライアウトが多くなっているがゴロ派の投手が多い。ゴロアウトの割合が40%を超えているのは久保(46.8%)、香月(41.9%)、大竹(42.1%)、菅野(44.6%)、内海(44.6%)、西村(42.2%)、山口(40.8%)と7人もいる。
対照的に阪神でゴロアウトが多いのは44.4%の岩田だけ。8回を任されている福原はゴロアウトが22.2%に対しフライアウトが44.4%。守護神・呉昇桓はゴロアウトが17.0%でフライアウトが40.9%。速球派の投手はゴロアウトよりもフライアウトが多くなりやすい。ちなみに先発3本柱の能見、メッセンジャー、藤浪のゴロアウトの割合は29.7%、29.2%、33.6%。3人ともゴロアウト、フライアウト、三振アウトの割合に差がないことが特徴だ。
筒井復活のカギはゴロアウトにあり
中にはゴロアウトの割合が成績に関係している投手もいる。阪神・筒井だ。
2010年 防御率6.65 WHIP1.66 ゴロアウト29.7%
2011年 防御率1.26 WHIP1.19 ゴロアウト35.9%
2012年 防御率3.24 WHIP1.28 ゴロアウト21.1%
2013年 防御率2.58 WHIP0.99 ゴロアウト32.3%
WHIPは1イニング当たり何人のランナーを出したかを表した指標で1.2を切ればエース級、1.0を切ればリーグを代表する投手、1.4を超えると問題ありとされている。
筒井は、ゴロアウトの割合が30%台と多い年は防御率、WHIP共に好成績を残し20%台に減った年は苦しんでいる。そして、14試合に登板し防御率5.19、WHIP1.44の成績で現在2軍調整中の今季、ゴロアウトは19.2%と20%をも割り込んだ。例年30%前後だった三振によるアウトの割合は今季も32.7%と変化は無いがフライアウトは42.3%と初めて40%を超えた。筒井のピッチングはスライダーやチェンジアップを織り交ぜての組み立てだが、あくまでも中心は全投球の70%弱を占めるストレート。150km/h台の剛速球を連発するタイプではないだけにフライアウト40%台という数字はやや高く危険性も含んでいる気がする。2軍で◯イニングを無失点に抑えたら昇格させよう、ではなくゴロアウトの割合をバロメーターにしてもいいかもしれない。
藤川と岩瀬、球史に残るクローザーの投球内容
ゴロアウト、フライアウト、三振アウトの割合をバロメーターにすると、2人の偉大なクローザーの変化も読み取れる。
トラの絶対的守護神・藤川球児は速球派らしくゴロアウトの割合は少ない。連続無失点記録47回2/3をマークした2006年が21.4%、無敵の火の玉ストレートを武器に重ねた三振アウトの割合は51.3%だった。その後も藤川の場合、ゴロアウトの割合は毎年20%前後であまり変化が無い。それでも日本最終年となった2012年のフライアウトの割合は2006の23.9%から33.1%へと約10%増えている。ゴロアウトの割合は変わっていないのにフライアウトの割合が増えた理由は明白で、三振アウトの割合が減ったから。高い奪三振能力を誇る藤川、2006年以降三振アウトの割合はほとんどのシーズンで50%前後を保っていたが、2010年と2012年の2シーズンは40%台前半だった。空振りしていた球をバットに当てられるようになったということだろうか。これは1軍定着してから常に0点台だったWHIPが1.0を超えたシーズンと重なる。
そしてもう1人、竜の守護神・岩瀬は力よりも技で勝負するタイプらしく2006年のゴロアウトの割合は47.0%。シーズン46セーブの日本記録を作った2005年には60試合に登板しながら被本塁打は0本、プロ入り後コンスタントに60試合前後の登板を続ける鉄人は2位に100以上の差をつける日本歴代ナンバーワンの395セーブを積み上げた。球界屈指のスライダーを武器に常に40%台だったゴロアウトの割合は2011年、2012年に連続して30%台となるが、昨季は42.1%とかつてと同じ割合にまで戻る。しかし今季は再び35.5%と40%を切ったばかりか、例年20%台だったフライアウトの割合が38.7%と激増。チームトップの13セーブを挙げているが防御率4.43、WHIP1.66と自己ワーストの苦しいシーズンを送っている理由がわかる。
アウトの内訳に注目してみると、勝ち星やセーブ数だけでは測りきれない、チーム作りの方針や選手の調子が見えてくるかもしれない。