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ストライク:ボールで見た好投の条件

小中翔太スポーツライター/算数好きの野球少年

「フォアボールはあかん。打たれてもいいからストライクを投げろ」

指導者経験のある人なら1度はこう言ったことがあるだろう。投手経験のある人なら何度も言われたことがあるだろう。ストライクとボールの割合はどこまで試合に影響するのだろうか。阪神が巨人、広島と戦った9月9日~14日までの甲子園6連戦における先発投手の成績とストライク:ボールの比は以下の通り。( )の数字はストライクをボールで割ったもの

9日

阪神 ●メッセンジャー 4回途中8失点 41:27(1.52)

巨人 ○杉内 7回2失点 73:39(1.87)

10日

阪神 岩田 7回1失点 66:36(1.83)

巨人 ○菅野 7回1失点 67:37(1.81)

11日

阪神 ●能見 5回4失点 60:40(1.50)

巨人 ○澤村 7回2失点 78:35(2.23)

12日

阪神 ○藤浪 9回2失点 90:47(1.91)

広島 ●福井 6回8失点 64:46(1.39)

13日

阪神 ●岩貞 1回4失点 18:16(1.13)

広島 ○大瀬良 8回5失点 75:37(2.03)

14日

阪神 ○メッセンジャー 7回無失点 69:47(1.47)

広島 九里 6回無失点 53:31(1.71)

やはりストライク:ボールの比率の優秀な投手が勝つことが多い。10日の岩田と菅野はほぼ互角、どちらも素晴らしいピッチングだった。14日は九里よりストライク:ボールの比率で劣るメッセンジャーが7回無失点で勝ち投手になっているが中4日の影響か毎回のようにランナーを背負い、そのうち3度は得点圏まで進められている。投球内容自体は九里の方が良かった。メッセンジャーの方が与四球は多いが被安打数は同じで奪三振数は多いため、試合を観ていなければ新聞などに載るテーブルスコアを見ても差があったようには思わないだろう。このストライク:ボールは意外と使えるかもしれない。

甲子園で行われた大学野球では

ストライクを先行させた方が投手有利になるのはプロでもアマチュアでももちろん同じ。阪神が遠征試合となった15日~17日、甲子園では関西学生野球秋季リーグ戦、近畿大学対京都大学と関西学院大学対関西大学の試合が行われていた。

京都大学にはスポーツ推薦が無いため全員が入試の難関を突破している。もちろん甲子園を沸かせるような強豪私立出身者はほとんどおらず、関西学生野球連盟に所属する他の5校(立命館大学、関西学院大学、関西大学、近畿大学、同志社大学)とは選手個人の能力差が大きい。最下位から抜け出すことは難しいがそれでも最近は公立高校で文武両道を果たした部員が増え守備に目立った穴があるわけでもなく、打線も近畿大学投手陣から2試合で14安打を放つなど奮闘している。特に今年はドラフト候補の本格派投手を擁し例年以上に注目を集めているシーズンだ。

近畿大学との試合では2日続けて1-2で敗戦、勝ち点を落とした。しかし、先発投手のストライク:ボールの比は1.98と1.84という非常に高いものでこれは近畿大学の先発投手の1.25、1.72を上回っている。これがプロ野球選手を何人も輩出した名門相手に善戦出来た要因の1つだろう。

もう1つの対戦カード、伝統の関関戦では関西大学が2勝1敗で関西学院大学を下し4季ぶりの勝ち点を挙げた。先発投手の勝ち負けとストライク:ボールの比を並べると

関西大学

●1.66

○1.27

○1.90

関西学院大学

○1.49

●1.63

●1.28

こちらはストライク:ボールの比が勝敗とあまりリンクしていない。しかし、1.8というところにラインを引くとプロアマ問わずかなりの確率で勝っていることがわかる。1.8以上の数値を残しながら負け投手となったのは京都大学の2人だけ。しかし、1戦目に投げたプロ注のエースは延長11回を2失点完投だから全く責められない。2試合目に先発した投手の球速は常時120km/h後半で制球力もコースにバシバシ決めるほどのものではない。実際7回を投げて奪った三振はわずかに1、それでも7回2失点(自責点1)だから先発の役割は十分に果たしており打線の援護があれば間違いなく勝利の立役者だった。

「勝つためにはボールの1.8倍以上ストライクを投げろ」

二刀流を成功させている日本ハム・大谷は、6月18日の阪神戦で160km/hを2度計測し、8回1安打11奪三振無四球無失点という圧巻の投球を披露している。この時のストライク:ボールの比は2.12だった。2.00以上になると相手からしてみればほとんどストライクだったという感覚に近いだろう。

ストライクとボールの割合に注目したという意味では奪三振数と与四球数から求めるK/BB(奪三振数を与四球数で割ったもの)という指標もあるが、奪三振数は空振りを取れるウイニングショットか見逃しの奪える制球力が無ければ伸びない。それでも追い込むことが出来れば打ち取れる確率は上がるだろう。また計算の性質上、シーズン序盤などは与四球が少し増えただけで分母が大きくなり数値がかなり変わる。

先発が100球程度投げるとしたらストライク:ボールの比が1.8:1になるのはストライク63球、ボール35球の時。確かにこの基準を上回ればかなりの確率で好投が予想される数字だ。もちろん打線との兼ね合いで負けることもあるが、ボールの1.8倍以上ストライクを投げることが出来れば勝利はグッと近づくだろう。

指導者の皆さん、これからは「フォアボールはあかん。打たれてもいいからストライクを投げろ」ではなく「勝つためにはボールの1.8倍以上ストライクを投げろ」というアドバイスはいかがですか?

スポーツライター/算数好きの野球少年

1988年1月19日大阪府生まれ、京都府宮津市育ち。大学野球連盟の学生委員や独立リーグのインターン、女子プロ野球の記録員を経験。野球専門誌「Baseball Times」にて阪神タイガースを担当し、スポーツナビや高校野球ドットコムにも寄稿する。セイバーメトリクスに興味津々。

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