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日本版マネーボールの申し子は中日にいた!

小中翔太スポーツライター/算数好きの野球少年

侍ジャパンに推薦したい中継ぎ2枚

「勝ち星は運にも左右されるので」

阪神の若きエース・藤浪は目標を聞かれると勝利数よりもイニング数に重きを置いた発言を繰り返していた。どんなに好投しても打線の援護に恵まれなければ勝ち星を量産することは難しい。しかし長いイニングを投げるということであれば自身のパフォーマンスが良ければ自然と数字は伸びる。投手の評価は勝利数や防御率でされることが多いが、微妙な当たりを安打とされるか失策とされるかによって自責点になるかどうかが変わり、同じような打球を打たれても味方の守備力によって安打にもアウトにもなり得る。ならば投手の能力を比べるためにはこれらの影響を一切除いた指標が望ましい。1つの四球を与える間にいくつの三振を奪えるかを示すK/BBと、三振に四球、被本塁打から総合力を示すFIPの2つは野手の守備力によって左右されることが無い。

K/BBはこの数値が高いほど、奪三振能力と制球力に優れた完成度の高い投手と見ることができ、3.5以上が優秀の目安。擬似防御率とも言えるFIPは(被本塁打×13+(与四球+与死球-敬遠四球)×3-奪三振×2)/投球回数+3.12 で計算され、こちらは逆に低ければ低いほど良い。K/BBで非常に優秀な成績を残したのがロッテ・大谷だった。

WBCでは大谷リレーが必勝リレーに?ロッテ・大谷は歴代屈指のリリーフエースだ

他には今月上旬に行われた台湾との強化試合で侍ジャパンに追加招集されたソフトバンク・森も好成績を残している。昨季は55試合に登板し5勝2敗16ホールド、防御率は2.69。これだけでも十分中継ぎとして好投していたことがわかるが、特筆すべきはK/BBが6.60、FIPは1.88という文句なしの数字。先発と中継ぎの違いはあるが、24勝0敗の活躍で楽天を日本一に導いた2013年の田中がK/BB5.72、FIP2.07だったから森の投球がいかに打者を圧倒していたかがわかる。代表チームはエースと守護神を中心に構成されることが多いが、中継ぎの専門職も加わればブルペンは更に厚くなる。来年のWBCでは日の丸を背負って投げてほしい投手だ。

これだけの働きをしながら今季の推定年俸はロッテ・大谷が8000万で森は7000万。支配下登録選手の平均年俸は4491万だからかなりお得だろう。しかし、中日にはこの2人以上にコストパフォーマンスの良い、リリーフエース級の数字を残した投手がいる。

費用対効果最高の中継ぎ左腕、中日・岡田

中日で歴代最強のリリーフ投手と言えば間違いなく岩瀬だろう。昨季は1軍登板無しに終わったものの2005年に挙げた46セーブは今でも破られていないシーズン最多記録であり、通算402セーブも2位の高津(元ヤクルト)に116差をつけてのぶっちぎりで歴代1位。入団から15年連続50試合以上登板を達成した鉄腕は自慢のスライダーを武器に何度も打者を牛耳ってきた。

昨季はそんな最強クローザーがいなかった竜のブルペンを同じく左腕の岡田が支えていた。昨季の成績は、50試合に登板し0勝1敗12ホールド。勝利の方程式の一角、ではないため見栄えは他球団のリリーフエースよりも劣る。しかし防御率は1.57と安定しており、225人の打者と対戦して許した本塁打は1本だけ。1イニング当たり何人の走者を出したかを示すWHIPは0.92と1.0を切り、FIPも1.94と非常に優秀。2014年も先発した7試合で1勝6敗、防御率6.44と結果を残せずシーズン成績は3勝7敗4ホールド1セーブ、防御率4.33と平凡だったが、中継ぎとしては31試合2勝1敗4ホールド1セーブ、防御率2.23と好成績を収め、被打率も先発時の.295→.213と大きく改善している。

岩瀬、巨人・山口、ソフトバンク・森福らに全盛期と比べると陰りが見える現状において、リリーフ左腕の1番手と言えば楽天・松井裕の名前が挙がるだろう。その成績はK/BB3.68 FIP1.81 WHIP0.90とやはりどれも抜群に良い。ただし岡田の成績もK/BB3.67 FIP1.94 WHIP0.92と全く引けを取らない。

しかも岡田はこれだけの投球をしながら今季の推定年俸は3400万と平均を下回る。メジャーで快進撃を見せたアスレチックスがセイバーメトリクスを導入した理由、それは限られた予算で真に勝利に貢献する選手を探すためだった。昨季中日が喫した逆転負け34試合はリーグワースト、今季も前評判は高くない。多くの評論家が混戦を予想するセリーグで優勝争いに絡むためには勝ちパターンのリレー確立は必須条件。マネーボールの申し子が救世主となるか。

スポーツライター/算数好きの野球少年

1988年1月19日大阪府生まれ、京都府宮津市育ち。大学野球連盟の学生委員や独立リーグのインターン、女子プロ野球の記録員を経験。野球専門誌「Baseball Times」にて阪神タイガースを担当し、スポーツナビや高校野球ドットコムにも寄稿する。セイバーメトリクスに興味津々。

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