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苦しむ平成の怪物。松坂が欠いた安定感

小中翔太スポーツライター/算数好きの野球少年
日本が連覇したWBCでは2大会連続のMVPに輝いたが・・・(写真:アフロスポーツ)

ベテランの域を迎えた平成の怪物が苦しんでいる。

ソフトバンク・松坂は日本復帰後初の1軍登板となった10月2日の楽天戦で先頭の嶋を全球ストレートで歩かせると、続く島内、松井稼に連続死球。その後もカウントを悪くして甘く入ったストレートを狙い打たれるなど本来の姿とはほど遠く、1回3安打4四死球5失点。結果を残せなかった。

安定した投球は10年前が最後

投手の成績を表す指標の中にWHIPというものがある。防御率が投球の「結果」を表すのに対し、WHIPは(被安打+与四球)÷投球回で計算され、1イニングに何人の走者を出したかという投球の「内容」を示す。1.2を切ればエース級、1.0を切ればリーグを代表する投手、1.4以上だと問題ありというのがその目安だ。

松坂は元々制球力で勝負するタイプではなくWHIPはやや高くなりがちだったが、プロ5年目からは制球力に改善が見られ、海を渡る前年の2006年には186回1/3で34四球、1試合平均の与四球が1.64個と非常に少なくWHIPも0.92という抜群の成績を残していた。6安打3四球で完投、これでWHIPは1.0だ。0.92ということはシーズンの”平均”でそれ以上のパフォーマンスを発揮していたことになる。

しかし、メジャー8年間での通算WHIPは1.40。18勝3敗、防御率2.90という成績を残しメジャーでのキャリアハイとされる2年目でさえWHIPは1.32。与四球94はリーグ最多、29回先発して投球回は167回2/3だから平均投球回数は6回を下回る。QS率(6回以上を投げて自責点3点以内に抑えた割合)は48%。勝ち星こそ多く挙げていたが、鉄壁のリリーフ陣と強力打線の援護を受けたことが大きく、実は”内容”はそれほど良くなかった。その後もWHIPは大きな数字が並び、日本復帰後も上記の楽天戦で投げるまでに2軍で9試合に登板したがWHIPは1.69。これが改善されない限り、仮に勝ち星がついたとしても安定した投球を続けることは難しい。

モデルチェンジか剛腕路線の継続か

高校時代から150km/h台の豪速球を武器に圧倒的な存在感を放ってきたが、2011年に肘、昨季は肩にメスを入れ、現在は力を込めて投げ込んでも球速はほとんどが140km/h台前半にとどまる。今後は、多くの速球派投手達が年齢と共にモデルチェンジしてきたように投球術を磨くのか、それともかつてのように走者を出してもお構いなしに力でねじ伏せる剛腕スタイルを貫くのか、の選択を迫られるだろう。ただ楽天戦での投球を見る限りでは後者を追い求めているようだ。左打者の内角に切れ込むカットボールも有効だったが、軸になるのも松坂本人が投げたがっているのもやはりストレート。打者一巡し2度目の対戦となった嶋の打席でもウイニングショットに選択すると、前の打席、わずか15分前に5球続けて見たばかりのはずの軌道に日本代表経験も豊富な選手のバットが空を切った。この日投じた39球を前向きに捉えるならば、入りは固さがあったものの最後は2者連続で三振に仕留めている。

ただしストレートで奪った空振りはこの1球だけ。そして何よりわずか1イニングのみの登板のため参考にはならないが公式記録として残る今季のWHIPは5.00。来季は3年契約の3年目。平成の怪物にとって後の無いシーズンになる。

スポーツライター/算数好きの野球少年

1988年1月19日大阪府生まれ、京都府宮津市育ち。大学野球連盟の学生委員や独立リーグのインターン、女子プロ野球の記録員を経験。野球専門誌「Baseball Times」にて阪神タイガースを担当し、スポーツナビや高校野球ドットコムにも寄稿する。セイバーメトリクスに興味津々。

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