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初任給の給料明細をチェックしよう! 求人詐欺に騙されないために

今野晴貴NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。

今年度が始まって2ヶ月が経つ。多くの企業では、月末締めの翌月半ば、もしくは末日払いを採用しており、5月半ばもしくは5月末に初めて給料を受け取る新入社員は多いことだろう。

給料明細を受けとる際に、新入社員が注意しなければいけないのが、「求人詐欺」である。求人詐欺とは、実際よりも高い条件を求人に書き込むことで若者を騙して入社させるという手法だが、特に、残業代を予め給料に含み込んで支給額を高く見せる「固定残業代」という制度を悪用活用するケースが多い。厚生労働省が発表しているデータによれば、ハローワークに掲載されている求人が実際の労働条件と違うという相談が年間1万件以上あったという。

この求人詐欺には、給料明細を受け取って初めて気がつくケースが多いので特にこの時期に関心を持っておくことが、ブラック企業に巻き込まれないための準備、そしてもし巻き込まれてしまった時の行動の際にとても重要になる。

本記事では、日本の労働市場に広がる「求人詐欺」の概要を紹介したうえで、「給与明細」のどこを注視してみればよいのかを指南していこう。

(尚、詳しい求人詐欺への対処法については、拙著『求人詐欺 内定後の落とし穴』(幻冬舎)を参考にしてほしい)

騙して入社させる「求人詐欺」

求人詐欺には、「話が違う契約強要型」と「あいまい求人型」の2つのパターンがある。「話が違う契約強要型」とは、ハローワークや就職ナビの募集内容とは違う契約を、入社直前もしくは入社した後に無理やり結ばせようとするというパターンだ。

例えば、大手コンビニのフランチャイズ会社に新卒で採用された20歳代のAさんは、求人サイトに書かれていた「月額20万円」という表記をみて応募し、面接を経て採用された。しかし、入社直前に渡された「採用内定通知書」にかかれていたのは「基本給15万円、営業手当A2万円、営業手当B3万円」だであった。たとえ契約書に疑問を持ったとしても、入社直前のタイミングで内定を辞退し就職活動を新たに始めるのは難しい。

そのまま入社したAさんは、この営業手当が実は残業代ということを後から把握した。

もう一つの「あいまい求人型」とは、様々な手当を表記しておいて後に「実はこの手当が残業代の代わりだ」と説明し残業代の支払いを逃れるパターンだ。「話が違う契約強要型」は、新しい契約書を持ちだしてサインや合意を促すのに対して、「あいまい求人型」は最初から契約内容を説明もせず曖昧にしておくことで、会社の都合のいいように解釈するという手法である。

例えば、関東圏の給食施設で働く調理師のBさんは「基本給19万7000円+調整手当4万3000円」の月給24万円の契約を結んで働き始めた。人手不足で月100時間の残業があったが残業代は1円も支払われなかったので会社に問い合わせたところ、「調整手当が残業代です」と伝えられた。それまで一言もそのような説明は受けておらず、給料明細で残業代が支払われていないことを確認して初めて「求人詐欺」だったことにBさんは気がついたのだ。

「話が違う契約強要型」では会社から新しい契約書を持ちだされて初めて騙されたことが分かるのに対して、「あいまい求人型」の場合は給料明細を受け取ってそこで気づくケースが多い。そのため、初任給を受け取るこの時期に最も注意しておく必要があるのだ。

給料明細を確認しよう!

会社は給料明細を必ず交付しなければいけないと法律で決まっているので、今年入社した方々は、初任給の給料日と同時に明細書を受け取るはずだ。その明細書には「支給」と「控除」の欄があり、それぞれ支給額の内訳と控除額の内訳が記載されている。また、「勤怠」という欄がある場合は、出勤日数や残業時間などが書かれている。

給料明細を受け取った際に、一番注意すべきは「支給」の欄だ。特に「手当」があればそこに注目する必要がある。というのも、給料を実際より高く見せるためにほとんどのケースにおいて「固定残業代」を採用しており、この「固定残業代」が「手当」という名目になっているケースが多いのだ。

残業している場合は、本来であれば「時間外手当」もしくは「残業手当」という名目で実際に残業した時間分の給料が支払われなければいけない。もし残業しているにもかかわらず、それに該当するような記載がなければ未払い賃金が確実にあると言える。

そして、残業代に該当するような記載がなく、よくわからない手当が書かれているのであれば、それは「固定残業代」を用いた「求人詐欺」の可能性が非常に高い。上記のAさんやBさんのケースでは、「営業手当」や「調整手当」が実は残業代の代わりであったことが発覚している。他にも「OJT手当」、「職務手当」、「役職手当」、「営業手当」という名目の手当が、自分の知らないところで残業代の代わりになっている可能性がある。

「おかしい」と思ったら、証拠を残してすぐに相談を

次に、給与明細から「求人詐欺」が発覚した場合の対処法について解説していこう。

第一のポイントは、求人詐欺はほとんどの場合違法になるということだ。

そもそも、本人に対して一切説明をせずに、勝手に残業代を手当として支給することは違法行為である自体おかしく契約違反であると言える。また、さらに、ブラック企業は「固定残業手当」だけではなく、様々な「手当」を「実は残業代でした」と主張することで、残業代の支払いを免れようとする。

会社がなにも説明しない「あいまい求人型」の場合、応募した求人が詐欺かどうかは給料明細を受け取って初めて気がつくケースがほとんどだ。だが、もし、残業をしていれば、約束した月給の金額に上乗せして、残業代の支払い義務が会社に生じる。しかも、残業代計算の元となる一時間当たりの給与は、「手当」を含んだ月給から算出されるのだ。

この法律上の扱いは、どのような「手当」を名目にして残業代だと会社が主張しても変わらない。受け取る金額自体が最初の約束と同じだったとしても、実際には残業をしていたためその分が当然にも上乗せされるはずだ。

上記のAさんやBさんは、本来であればそれぞれ月額20万円や24万円にプラスして残業代が支払われると思って入社しているので、それが本来の契約内容となる。したがって、し、法律的にも20万円や24万円にプラスして残業代を支払わなければ違法になるということだ。

ただ、今年度入社して給料明細をみてもいきなり何がおかしいのかわからないかもしれないし、今すぐアクションを起こすのは気が引けるかもしれない。

そこで重要になることが第二のポイントだ。それは、その場合は、「とにかくまずは証拠を残す」ということだ。証拠を残し、して後から残業代を請求でも主張できるように準備しておくことということのが大事だ。

そのために、内定通知書や求人票、契約書や給料明細といった書類は全て保管しておこう。またさらに、労働時間の記録もがあれば残業代の未払いを後で請求するために必須となることが可能になる。タイムカードを写メで撮ったり自分でメモを残したりして働いた時間の記録をとっておくことが、後々重要ポイントになってくるのだ。

そして第三のポイントはそして、とにかく外部の専門機関に早めに相談することだをしてみてほしい。無料で労働相談を受け付けている労働問題の専門家が集まる窓口は、私たちのようなNPOをはじめ、労働組合(ユニオン)や弁護士団体などいくつか存在する。これらの窓口では、単なる法律的な知識だけでなく、具体的に明日から自分がどう振る舞えばいいのかといった実践的なアドバイスを受けることができる。おかしいかどうかを判断するための材料として活用してほしい。

無料労働相談窓口

NPO法人POSSE

03-6699-9359

soudan@npoposse.jp

http://www.npoposse.jp/

総合サポートユニオン

03-6804-7650

info@sougou-u.jp

http://sougou-u.jp/

ブラック企業被害対策弁護団

03-3288-0112

http://black-taisaku-bengodan.jp/

日本労働弁護団

03-3251-5363

http://roudou-bengodan.org/

NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。

NPO法人「POSSE」代表。年間5000件以上の労働・生活相談に関わり、労働・福祉政策について研究・提言している。近著に『賃労働の系譜学 フォーディズムからデジタル封建制へ』(青土社)。その他に『ストライキ2.0』(集英社新書)、『ブラック企業』(文春新書)、『ブラックバイト』(岩波新書)、『生活保護』(ちくま新書)など多数。流行語大賞トップ10(「ブラック企業」)、大佛次郎論壇賞、日本労働社会学会奨励賞などを受賞。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。専門社会調査士。

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