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50ドル台を割り込んだ原油価格の行方

小菅努マーケットエッジ株式会社代表取締役/商品アナリスト

NYMEX原油先物相場は、1月5日の取引で1バレル当たり前日比-2.65ドルの50.04ドルと急落した。一時は50ドルの節目も割り込み、2009年4月以来の安値を更新している。東京商品取引所(TOCOM)の中東産原油価格も、1月6日の時間外取引で1キロリットル当たりで前日比-1,510円の4万2,080円と急落し、こちらは2010年10月以来の安値を更新している。これは、概ね06~07年の原油調達コスト環境に回帰したことを意味し、ピークとなった08年の9万5,360円からは50%を超える下落率が記録されている。

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昨年の原油相場は、年間で45.9%の下落率を記録したが、その軟調地合は2015年にも持ち越されていることが強く印象付けられる値動きである。年初からはまだ2営業日が経過したに過ぎないが、累計下落率は既に6.1%に達しており、年明け後に投機ファンドが原油価格に対する売り攻勢を強めているのは明らかである。

背景にあるのは、原油需給の供給過剰状態を是正するのは難しいとの見方に尽きる。国際エネルギー機関(IEA)によると、1~3月期の世界石油需要は日量9,253万バレルが予想されている。これは前年同期の9,164万バレルを89万バレル上回っており、需要の拡大傾向が止まっている訳ではない。今年は世界的にみて異常な寒波などが観測されている訳ではないが、それでも前年比でプラス成長を維持する程度の力強さは保っている。ただ問題は、それ以上に供給圧力が強いことであり、「当面はこの状況に変化が生じることはない」との悲観的な見方が、原油相場を押し下げている。

同じくIEAのデータでみると、昨年11月時点の世界産油量は日量9,410万バレルとなっている。即ち、そこから最低でも157万バレルの減産を行わない限り、国際原油需給は供給「過剰状態」になる計算である。

■原油需給バランスの安定化には、50ドル台は不十分との見方

しかし、石油輸出国機構(OPEC)は昨年11月27日の総会で減産対応を見送り、供給過剰の是正を市場原理に求める基本方針を確認したばかりである。その後も、OPECの盟主的存在であるサウジアラビアは繰り返し減産対応の必要性を否定しており、イラクなどは逆に増産傾向を強めている。また、原油相場急落の直撃を受けたロシアも昨年12月時点で緩やかな増産傾向が維持されていることが確認されており、伝統的な産油国サイド主導の生産調整は期待しづらい状況が続いている。

このため、高コストなタイトオイル分野がどこまで原油安に対応できるのかが注目されるが、こちらも現段階では明確な減産兆候は確認できていない。シェールオイルの生産地である米国の産油量は直近の昨年12月26日時点で日量912万バレルとなっているが、これは前年同期の812万バレルをちょうど100万バレル上回っている。

例年であれば、暖房用エネルギーの需要期となるこの時期の米国内原油在庫は減少する傾向にある。しかし、今年は逆に在庫積み増し傾向が報告されており、このことも「原油需給はだぶついている」との市場観測が正しいことを裏付けている。

一応は、石油リグ稼動数の減少、石油掘削申請件数の落ち込みなど、「原油相場急落→シェールオイル生産鈍化」の兆候が全く見られない訳ではない。しかし、マーケットが想定していたよりもシェールオイルが遥かに強力な安値対応力を示す中、50ドル台では需給バランスの均衡化に不十分との見方が、WTI原油相場の50ドル割れを促したと考えている。

■需要サイドからも需給緩和圧力

しかもタイミングの悪いことに、1月2日に発表された中国の12月製造業PMIは前月の50.3から50.1まで落ち込み、1年半ぶりの低水準を記録している。依然として活動の拡大・縮小の分岐点となる50は上回った状態が続いているが、中国経済が厳しい困難に直面しているのは明らかである。需要サイドから更に需給が緩和することはあっても、引き締まることはないとの見方が、原油安に拍車を掛ける一因になっている。

また、1月25日にギリシャ議会の総選挙が控える中、ギリシヤのユーロ圏離脱観測が浮上していることも、原油価格に対してはネガティブである。ギリシヤ10年債利回りは、昨年中盤の5%台後半に対して、足元では9%台前半まで急伸しており、ギリシヤ発の欧州危機再発に警戒感が強くなっているのは明らかである。通貨市場では、今年中盤にも利上げに着手すると見られるドル回帰の動きが強くなっており、ドル建てで決済される国際原油価格は需給環境に何も変化が生じなくても値下がりし易い環境になっている。

しかも、原油相場急落の国際政治経済に対する影響が読みづらい中、リスクマーケットの中心である株価も同様を見せており、それが更に原油相場を押し上げる負の循環トレンドに突入した感さえある。

■2015年の原油相場は?

現在の原油価格水準に対しては、中長期的に維持することは困難な安値水準との見方が強い。主要投資銀行からも、今後の値上がりを予想するレポートの発表が増えている。ただ、このまま産油国サイドが何ら動きを見せないのであれば、需要の端境期となる4~6月期に向けては一段安を試す可能性も否定できず、40ドル台定着が進むシナリオも想定しておく必要がある。

もっとも、その後は7~9月期以降に季節要因から需要が上向くことで、特に大幅な減産対応などが行われなくても、原油需給の緩和状態はピークを脱する可能性が高く、原油価格は徐々に底入れに向かう展開がメインシナリオになる。世界石油需要は、1~3月期の日量9,253万バレルに対して、7~9月期は9,396万バレルまでの増加が想定されており、需要サイドから日量143万バレル相当の需給引き締め圧力が発生する計算になるためだ。あくまでも中国や欧州経済がこれ以上の大きなトラブルに見舞われないことが前提になるが、原油安が世界経済を順調に刺激すれば、原油需給の緩和状態は是正される可能性が高まる。

加えて、その頃には昨年後半以降の原油相場急落がシェールオイル開発に与えた影響も顕在化し始める見通しであり、これから半年程度の期間が、原油相場急落のクライマックスとなる可能性が高い。あとは、需要がどの程度の伸び幅を実現できるかで、原油価格の反発力は決定付けられることになる。裏返せば、そこで需要の回復も減産も実現しないのであれば、原油価格は更に厳しい環境に直面することになる。

マーケットエッジ株式会社代表取締役/商品アナリスト

1976年千葉県生まれ。筑波大学社会学類卒。商品先物会社の営業本部、ニューヨーク事務所駐在、調査部門責任者を経て、2016年にマーケットエッジ株式会社を設立、代表に就任。金融機関、商社、事業法人、メディア向けのレポート配信、講演、執筆などを行う。商品アナリスト。コモディティレポートの配信、寄稿、講演等のお問合せは、下記Official Siteより。

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