Yahoo!ニュース

NY原油6年ぶりの40ドル割れ、プロの見ている真相

小菅努マーケットエッジ株式会社代表取締役/商品アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

NY原油先物相場は、8月21日の取引で一時1バレル=39.86ドルまで下落し、2009年3月以来で初めて40ドル台を割り込んだ。原油価格の30ドル台が見られるのは実に6年5ヶ月ぶりのことであり、リーマン・ショック直後の混乱期を除くと、概ね2004年の価格水準に回帰した状態になる。

画像

グローバルマーケットに目を向ければ、同日の米株式相場は前日比で3%を超える下落率を記録しており、ダウ工業平均株価は5月の高値から10%の急落となっている。2000年代に世界経済の拡大を牽引してきた中国経済の下振れリスクが強まる中、投資家はリスクマーケットに対する信認を失っており、原油相場もその流れの中で売られたというのが一般的な理解になる。特に、中国の石油需要環境が悪化すれば、それは本来は中国で消費されるべき原油が在庫としていずれかの国で保管されることを意味し、中国要因による国際原油需給の緩和リスクというのは、分かり易い解説と言える。

しかし、国際原油市場におけるプロの見方はやや異なっている。即ち、中国経済の減速は原油相場急落の一因であっても、決定打ではないと考えられているのだ。

原油市場関係者の間で最近話題になっている指標としては、シェールオイルの生産拠点である米国の石油リグ稼動数がある。原油相場の急落は当然に生産コストラインの高いシェールオイル生産に大きなダメージを与え、米国では急増していた石油リグが一斉に稼動を停止した。昨年10月から今年6月までの間には、実に6割もが稼動停止に追い込まれた。だが、7月、8月と原油相場が改めて値下がりする中で、この石油リグ稼動数は再び増加に転じ始めているのだ。過去2ヶ月で約7%の増加となっており、これはシェールオイル業界が現在の原油安でも採算が取れる環境へのシフトに成功しつつあることを示している。

画像

石油輸出国機構(OPEC)は、大規模増産によって原油相場を押し下げ、シェールオイルに代表される高コスト原油に市場からの退出を迫ることで、国際原油需給を安定化させるシナリオを描いていた。実際にOPECの産油量は原油相場が150ドル水準に到達した08年以来の高水準に達しており、原油相場の急落に逆行するかのように産油水準を引き上げてきた。

画像

だが、ここでシェールオイル生産が破綻する所か逆に増産再開の兆候を見せる中、マーケットではOPECの戦略破綻に対する警戒感が強くなっている。実際に今月に入ってからは、ベネズエラやアルジェリアなどが減産政策への転換を訴えるなど、OPECの結束が緩み始めている。

かと言って、OPECが生産調整に舵を切っても、一時的に原油相場の反発を促すことは可能でも、シェールオイルやオイルサンド、深海油田といったタイトオイルと極めて厳しい販売競争を迫られることになり、国際原油市場に対するOPECの影響力低下は避けられない状況になる。

このまま原油安を進めれば産油国の政情不安が高まるのは必至だが、OPECとしては増産しても減産しても、いずれにしても明るい未来を描けない状況に陥っている。この問題の解決策を見出せないことが、実は中国経済の減速よりも重要な原油安の真相というのが、国際原油市場におけるプロの一般的な見方である。

マーケットエッジ株式会社代表取締役/商品アナリスト

1976年千葉県生まれ。筑波大学社会学類卒。商品先物会社の営業本部、ニューヨーク事務所駐在、調査部門責任者を経て、2016年にマーケットエッジ株式会社を設立、代表に就任。金融機関、商社、事業法人、メディア向けのレポート配信、講演、執筆などを行う。商品アナリスト。コモディティレポートの配信、寄稿、講演等のお問合せは、下記Official Siteより。

小菅努の最近の記事