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冬小麦の作付けを見送れば、大豆が急落する?

小菅努マーケットエッジ株式会社代表取締役/商品アナリスト
(写真:アフロ)

米農務省(USDA)が1月12日に発表したレポートが、穀物市場に衝撃を与えた。米国における冬小麦の作付面積が、1909年以降で最低になったと報告されたのだ。今回は2016/17年度の冬小麦の作付面積が発表されているが、前年度の3,614万エーカーに対して3,238万エーカーまで、実に10.4%もの大幅な落ち込みになっている。15/16年度も前年比で8.9%の落ち込みであり、過去5年で20%近い面積が喪失された計算になる。

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小麦には大別して春小麦と冬小麦の二つの区分が存在し、冬小麦は9月初旬から11月中旬にかけて作付けを行い、翌年の春先に収穫期を迎えるものである。このため、冬小麦の作付けを諦めたということは、必然的に春先にトウモロコシや大豆、もしくは春小麦などの他穀物を作付けする選択肢を生じさせることになる。もちろん、作付けそのものを放棄する選択肢も存在するが、375万エーカーもの本来であれば冬小麦が作付けされているはずの未作付農地が発生しているインパクトは極めて大きい。

これは、16/17年度の作付面積ベースでは、トウモロコシの4.0%、大豆の4.5%に相当する規模であり、17/18年度の穀物需給環境を大きくかく乱する要因になり得るものである。仮にその全てがトウモロコシか大豆の作付けにシフトすると、単純計算で4%もの増産が実現する計算になるためだ。

昨年も冬小麦は作付け放棄から他穀物に転作する動きが報告されているが、その際は小麦全体で480万エーカーの面積が喪失される一方で、トウモロコシの面積が600万エーカー増加し、春小麦農家は主にトウモロコシへの転作を行った。しかし今年の先物価格はトウモロコシよりも大豆の作付けに収益面での優位性が確認できる状況にあり、今回の冬小麦の作付面積減少報告は、17/18年度の大豆増産リスクに直結することになる。

しかしその大豆も、16/17年度の期末在庫は06/07年度以来の高水準が見込まれており、3年連続の大豊作で在庫がだぶついているのが現状である。トウモロコシ、小麦も豊作続きで過剰在庫を抱え、価格低迷問題が深刻化している状況にある。こうした中、小麦は冬小麦の作付け見送りという形でいち早く供給調整に動いた格好だが、それは17/18年度の大豆需給緩和、そして価格低迷リスクを発生させることになる。いずれの穀物も価格低迷の長期化で農家の収益性に向ける視線は厳しさを増しており、僅かな収益性の違いが作付面積の大変動をもたらしかねない状況になっている。

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マーケットエッジ株式会社代表取締役/商品アナリスト

1976年千葉県生まれ。筑波大学社会学類卒。商品先物会社の営業本部、ニューヨーク事務所駐在、調査部門責任者を経て、2016年にマーケットエッジ株式会社を設立、代表に就任。金融機関、商社、事業法人、メディア向けのレポート配信、講演、執筆などを行う。商品アナリスト。コモディティレポートの配信、寄稿、講演等のお問合せは、下記Official Siteより。

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