今度はドイツ連銀総裁からの警告
先日のドイツのショイブレ財務相に続き、今度はバイトマン・ドイツ連銀総裁が日銀の独立性が危険との警告を発している。
ロイターによると、バイトマン総裁はドイツ証券取引所が主催するイベントで講演し、そのなかで、日本政府が日銀にさらなる金融緩和を迫ったことは、ハンガリー政府の同国中銀に対する行為と同様、日銀の独立性を危険にさらしていると指摘した。
ここでハンガリー政府の行った行為とは何であったのかを振り返ってみたい。2011年12月にハンガリー中央銀行の独立性を脅かす新中銀法が可決された。この新法では金融政策を決める政策委員会のメンバーを拡大し、副総裁を2人から3人に増やすことを定めた。また議会は憲法を改正し、中銀と他の金融規制当局を統合し、シモール中銀総裁を統合後の新機関の副総裁に降格させることも可能にした(ロイター)。
この法案可決を受け、ハンガリー通貨フォリントは急落し、ハンガリーの国債も急落したのである。2012年1月5日のハンガリーでの国債入札で1年物証券の発行が未達となったが、この日にハンガリー政府はIMFおよびEUからの提案について協議し、受け入れる用意があるとし、7月6日に国立銀行法の修正案を賛成多数で可決した。修正案では、金融政策委員会の会合に政府の代表者を参加させることができるという条項、会合前に議事案を政府に提出しなければならないという条項は削除されるなどしたのである。
バイトマン氏は「両国(ハンガリーと日本)では政府が積極的な緩和を求めて圧力をかけることで中銀の領域に大きく干渉し、その独立性を脅かしている。意図しようがしまいが結果的に為替レートの問題がますます政治問題化する可能性がある」と警鐘を鳴らした(ロイター)。
このバイトマン氏の発言の背景には、通貨安競争への懸念があるとともに、中央銀行の独立性が脅かされるとなれば、国際的な非難を浴びるであろうことを示唆しているものとみられる。
今回、政府と日銀は2%の物価上昇率を目標とする共同声明を政府と日銀で取り交わしたが、これはアコード(政策協定)ではないしている。政府も日銀の独立性に配慮する必要性を認識し、日銀としても日銀法改正に向けた動きは断固避ける必要性もあり、2%の物価目標を飲まざるを得なかった面もあると思われる。実際に安倍首相は今回の決定会合で物価目標を設定しなければ、日銀法改正を検討する考えを示していた。
しかし、今後の日銀の動向次第では、再び日銀法改正の動きが出てくる可能性も否定できない。浜田宏一・内閣官房参与もインタビューで「インフレ目標と日銀法改正で日本経済を取り戻す」との発言もしている。
アベノミクスへの期待は確かに大きい。円安とそれによ株高を招いたと歓迎する声も多い。今回の円安が円高調整の動きで済めば良いが、日本の中央銀行の独立性が脅かされるとの懸念により、本格的な円売り圧力が強まると、ブレーキを踏むことが難しくなる。昨年のハンガリーの事例は、決して他人事ではない。特に今回のように日銀の金融政策のレジームが転換されそうなタイミングでの海外からの警告は無視すべきではないと考える。