今後のCPIと円安による金融政策への影響
9月26日に公表された8月の全国消費者物価指数によると、総合が前年比プラス3.3%、生鮮食料品を除く総合がプラス3.1%、食料及びエネルギーを除く総合がプラス2.3%となった。
日銀が目標に掲げる2.0%の物価指数は総合ではあるが、通常、物価を見る上で参考としているのが、生鮮食料品を除く総合であり、ここから日銀が試算している今年4月の消費増税の影響分2.0%を除くと、前年比プラス1.1%となる。
量的・質的緩和を決定した2013年4月以降のコアCPI(消費増税の影響分除く)の推移は以下の通り(数値は前年比、%)
2013年4月-0.4、5月0、6月0.4、7月0.7、8月0.8、9月0.7、10月0.9、11月1.2、12月1.3
2014年1月1.3、2月1.3、3月1.3、4月1.5、5月1.4、6月1.3、7月1.3、8月1.1
金融緩和の影響は半年遅れて出てくるという見方があるそうだが、この数字を見る限りタイムラグなしで物価は上昇しているように見える。それだけ異次元緩和による物価上昇への影響が大きかった、わけではないであろう。
異次元緩和のさらに半年前のアベノミクス登場での円安による影響が予想以上の物価上昇に影響を与えていたといえる。特にエネルギー価格の上昇が大きく影響していた。そのエネルギー価格の上昇幅は7月の8.8%から6.8%に縮小した。これが7月から8月にかけての上昇幅の減少に影響した。
日銀の岩田副総裁は9月10日の講演で、「現在の物価上昇は円安による輸入物価(特にエネルギー価格)の上昇によるものであり、その効果が剥落すれば物価上昇のペースは下がるに違いない」という議論に関して、「実際のデータを確認すると、「量的・質的金融緩和」以前は、為替レートの変化と物価上昇率の間に、有意な相関は見出せません。つまり、円安が物価上昇をもたらすという関係は、必ずしも成立していないのです」と発言している。
そして「足許の物価上昇の最大の要因は、金融政策の効果などによって経済全体の需要が拡大していることであり、そうした需要圧力があるからこそ、輸入品のコスト増や消費税率引き上げの価格転嫁も、円滑に行われている」としている。
しかし、現実には7月から8月にかけては、今年に入っての円安一服もあり、さらにはここにきてのエネルギー価格の下落もあり、コアCPIは前年比プラス1.1%と1.0%近くまで落ち込んでいる。ここにきて円安が急速に進んでいるが、前回同様にその影響にはタイムラグがあるとすれば、すぐにCPIに跳ね返ることなく、コア指数が一時的に1.0%かそれ以下に落ち込む可能性もある。
岩田副総裁は円安による物価上昇の波及効果について否定的な発言をしたが、黒田総裁は円安を歓迎するような発言をしており、それは今後の物価上昇圧力が弱まるため、円安により少しでも引き上げようとの意図があった可能性もある。
円安が物価上昇に与える影響については見方が分かれていても、さすがに輸入物価の上昇等で影響が出るとみて良いかと思う。いずれ今回の急激な円安の影響も加味されると思うが、その前にいったん物価上昇にブレーキが掛かる可能性もある。ただし、円安株高が続く限りは、物価目標はさておいて市場からの日銀への追加緩和圧力が増してくることは考えづらい。しかし、円安株高が一服し、物価が思うほど上昇してこないとなれば、再び追加緩和圧力が強まることも予想される。