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消費増税先送りで国債は売られるのか

久保田博幸金融アナリスト

麻生太郎財務相は29日夜のNHKの番組で、2015年10月に予定される消費税率10%への引き上げについて、財務省としては、予定通り引き上げたいとの意向を示した。その上で、「(予定通り)しないと、話が違うと国際社会から言われかねない」とし、「国際社会から話が違うと言われた時、日本国債が売り浴びせられると、その対応は難しい。黒田日銀総裁も言っていたが、私たちが最も恐れるところだ」(ロイター)。

10月以降の債券相場を見る上で、大きな注目材料となりそうなのが、来年の消費増税の行方となろう。安倍晋三首相は来年10月からの消費税率10%への引き上げの影響を点検する有識者らの会合を11月早々にも始める意向を表明したが(日経新聞)、7~9月期のGDPなどを確認し、有識者らの意見も参考にした上で、増税の有無を決断すると思われる。

足元の経済指標を確認してみると、30日に発表された8月の鉱工業生産速報値は前月比1.5%の低下となり予想を下回った。8月の完全失業率は3.5%に低下し、7月の3.8%から改善した。ただし、その理由として女性の労働市場からの退出などが指摘されていた。同月の有効求人倍率は前月と変わらずの1.10倍となった。8月の家計調査によると、1世帯(2人以上)あたりの消費支出は物価変動を除いた実質で前年同月比4.7%減となった。マイナスは5か月連続となる。

単月の数字だけでは判断は難しいが、30日発表の経済指標をみても、少なくとも景気が回復しつつあるようには見えない。失業率は低下していてもその背景に労働市場からの退出があるとすれば決して好感できるものではない。

麻生財務相や日銀の黒田総裁は、来年の消費増税先送りについて、特に国債市場を持ち出してそのリスクに言及しているが、果たして消費増税先送りで国債は売られるのか。市場関係者の多くは、少なくとも急落することはない、あまり動かないのではとの見方が多いのではなかろうか。

その背景には日銀の超緩和政策が続き、足元金利がゼロもしくはマイナスとなっており、さらに日銀は大量の国債を買い続け需給面での懸念がないためと思われる。また、長期金利の低迷は長らく続いており、その環境に慣らされていることで、簡単には国債価格が急落することが想定できないこともあろう。

債券市場関係者の間でも、今年4月の消費増税は実施されても、来年の増税は先送りされると予想していたむきが意外に多い。このため、仮に来年の消費増税が先送りされても想定の範囲内として受け止める可能性がある。

もちろん麻生財務相や黒田総裁が懸念しているように、日銀が大量の国債を購入し財政ファイナンスではないかとの懸念も出るなか、財政健全化に向けた姿勢に少しでも揺るぎがあると、市場が反応するという懸念は存在する。その可能性は否定はできないが、過去に日本の財政悪化をテーマにした海外投資家主体の債券先物などの売り仕掛けが悉く失敗した事例も見ているだけに、むしろ今回も狼少年となってしまうリスクの方を意識するのではなかろうか。

もちろん市場が過剰反応しないようなので、消費増税を先送りしてもかまわないと主張するつもりはない。これだけ財政が悪化しているなか、国債が安定に消化され、売買も滞りなく実施されている状況に、国債への信認に対する不安要素は入れてほしくない。消費増税そのものが財政健全化に向けてのひとつの柱として認識されていることは確かである。しかもそれだけでプライマリーバランスが均衡化するわけでもない。財政健全化があってこそ、国債への信認が維持されている。

それでも消費増税の先送りについては、財政健全化よりも経済優先との認識もあり、ある程度の税収を確保するためには何を優先すべきかは検討されてしかるべきものであり、現在の債券市場のスタンスからはそのための猶予期間は、まだ多少なり存在するではないか思う。ただし、それで小さな火種を残すことになる可能性はある。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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