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債券先物は過去最高値を更新、追加緩和はリスク増加も

久保田博幸金融アナリスト

10月15日の欧米市場ではリスクオフの動きが強まり、ややパニック的な様相となった。米国株式市場でダウ平均は一時460ドル以上の下げとなり、16000ドルを下回る場面もあった。その後下げ幅を縮小させたが173ドル安に。欧州の株式市場も軒並み大幅下落となっていた。

15日の米10年債利回りは一時1.86%まで低下し、その後2.1%台に。ドイツの10年債利回りは過去最低を記録し、0.72%近辺まで低下した。フランスの10年債利回りも1.10%まで低下し、過去最低水準を更新。英国の10年債利回りも一時1.92%と2%を大きく割り込んでいた。それに対してギリシャ、スペイン、イタリアの国債は大きく売られた。

この世界的なリスクオフの動きにより、日本の債券先物は15日のイブニング・セッションで146円60銭まで上昇した。これまでの債券先物のザラ場の最高値は、2013年4月4日のイブニング・セッションでつけた146円44銭であったことで、ここであっさりと過去最高値を更新したのである。

2013年4月4日に何があったかといえば、日銀が量的・質的緩和を決定した日である。この4月4日の先物の高値は146円05銭、引け値は146円04銭。その後のイブニングで146円44銭まで上昇した。翌日の4月5日の債券先物は146円38銭で寄り付いて146円41銭まで上昇した。この間、10年債利回りは0.315%まで急低下したが、先物はイブニングでつけた高値の146円44銭は抜けなかった。その後、過去最低利回りを更新していた10年債に売りが入り、0.315%から0.620%に利回りが急騰。これにより債券先物も急反落となり、サーキットブレーカーが2度も発動し、債券先物は143円10銭まで下落し、5日の大引けは144円02銭となっていた。

債券先物のザラ場の過去最高値は、2013年4月4日のイブニングでつけた146円44銭となったのだが、引け値での高値は4日の146円04銭であった。今年の8月5日に債券先物は146円05銭で引けたことで、引け値としての過去最高値を更新した。その後じりじりと記録は更新され、8月28日の債券先物の引け値は146円29銭となったことで、ここが引け値としての過去最高値となっていた。

その後、債券相場は中心限月の移行もあり、いったん145円台をつけていたが、ここにきて再び切り返し、ザラ場での過去最高値を更新した。ただし、15日の大引けは146円24銭となったため、引け値としての過去最高値は更新しなかった。15日の前後場、いわゆる日中の高値は146円42銭となったことで、イブニングを除いた日中ベースでは2013年4月5日につけた146円41銭を抜いて過去最高値となったが、こちらはあくまでチャートを見る上での参考数字となり、記録上の最高値は146円60銭となる。

16日の10年債利回りの低下は、0.470%までの低下に止まっていた。この水準そのものは、2013年4月8日以来のものとなるが、昨年4月5日の0.315%という過去最低利回りにはまだ距離がある。昨年4月5日に0.315%からの0.620%の利回りの急上昇を市場参加者は目の当たりにして、警戒心も強く買い進みづらい状況のように思われる。それでも、世界的にリスク回避の動きがまだ続くとなれば、0.315%という長期金利の過去最低もいずれ視野に入ることも考えられなくもない。

しかし、ドイツやフランスの長期金利が過去最低を記録し、日本の債券先物も過去最高値を更新するほどのリスクが発生しているとも思えない。欧州の景気悪化や、英国を含めての物価の上昇の鈍さは気になる。それでも、何かしらの外的ショックが発生しているわけではない。米株式市場は過去最高値を更新し、その反動もあって世界の金融市場が動揺したが、ここまでリスク回避が進むはっきりとした理由もない。

これも日米欧の中央銀行の金融緩和が招いた可能性があるまいか。資金はあふれているが、その行き先が不安定になりつつある。これを沈めるには、極論ではあるが、追加の金融緩和より、むしろ出口政策を進めるほうが適切ではなかろうかとも思ってしまう。これ以上の追加緩和はむしろ今回のような価格変動リスクを増加させるだけになることも意識する必要があるのではなかろうかと思う。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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