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デフレ脱却が怪しくなっての消費増税反対なのか

久保田博幸金融アナリスト

麻生財務相はアベノミクスは「デフレ」脱却ではなく「デフレ不況」からの脱却を目指していると指摘している。「デフレ」と「デフレ不況」では大きく意味合いが異なる。そもそもアベノミクスとは何からの脱却を目指した政策であったのか。

2012年11月の衆院解散後に安倍自民党総裁は、政権奪還後、政府と日銀はアコードを結び、インフレターゲットを設定する。目標達成までは無制限な対応を行い、もし政策目標達成できなければ、日銀には説明責任を求めるとした。基本的には2%、3%のインフレ目標を設定して、それに向かっては無制限に緩和していく(ことが必要)」と述べていた。

この発言からみれば、当初のアベノミクスはデフレ脱却を目指していたことになる。日銀が2%以上の物価目標を設定し、それまで無制限な対応を行い、その目標を達成することが主眼であったはずである。ここにはGDPや失業率などに関する目標は置かれていない。その意味では「デフレ不況」からの脱却が目的であったとは言いがたい。しかしその後、第二の矢(財政政策)、第三の矢(成長戦略)を持ってきたが、効果の度合いなどみてもこれらは付け足しに過ぎないものといえる。

安倍政権は公約通りに日銀に大胆な金融緩和を実施させた。厳密には日銀が政府の意向を意識して自ら決定した格好だが、2013年4月の異次元緩和はアベノミクスを具体化させたことになる。それで何が起きたのか。

タイミング良く、物価や景気は確かに安倍政権発足後に回復してきた。まるで第一の矢が効いたように見えるが、金融緩和にそれほどの即効性があるわけでもなく、期待だけで物価どころか景気も浮揚できるのであれば、財政政策など必要なくなる。

ただ、金融政策は98%がトークと語ったFRB前議長がいた。2012年11月以降の日本の景気の回復と物価の上昇には、このトークの力が働いたことも確かである。安倍自民党総裁のリフレ発言を受けて、ヘッジファンドが円売り日本株買いを大量に仕掛けた。その結果の円安と株高が市場のムードを一新させ、欧州危機の後退による金融危機への不安が解消され、世界経済が回復基調となっていたことで、日本経済も回復した。物価も回復基調が見込まれていたところに円安とエネルギー価格の上昇分が上乗せされた。こうして順調にアベノミクスが効いているように表面上は見えていたのである。

ところが今年の4月の消費増税後あたりから様子がおかしくなってきた。欧州の景気の低迷や物価の下落、さらには中国の景気もブレーキが掛かってきた。FRBの利上げ観測もあり、ドル円は110円台に乗せるなど円安も進む。しかし、今度は円安による日本経済のマイナス効果も意識され始めた。そこにエネルギー価格の下落も加わり、物価の上昇圧力が弱まってきた。これにより日銀の物価目標達成も怪しくなってきた。

さらには消費増税の影響で個人消費が伸び悩み、景気が予想以上に落ち込んだことで、日銀にリフレ政策を押し付けた人たちを中心に、今度は来年の消費増税反対との声が自民党内部からも出てきた。

そもそも日銀が無制限な緩和を行っていれば物価目標が達成できて、それでデフレから脱却できるというのがアベノミクスを提言していた人たちの認識あったはずで、むしろ物価の上昇要因ともなる消費増税に反対するというのは理屈として理解できない。

デフレ脱却とデフレ不況脱却は似て非なるものである。リフレ派の主張通りであるならば、デフレ脱却には消費増税の有無などは関係なく、日銀が大規模な緩和を続ければ済むはずである。

ただし、デフレ不況脱却を目指すとなれば、意味合いが全く異なり、日銀だけではなく政府の財政政策等が大きく影響する。どうやらこのあたりがかなり曖昧となってしまっている。このため「デフレ脱却」ができなくなるのが消費増税による影響のように捉えられているが、それは関係のない話であろう。もし消費増税によって物価の上昇も抑えられてしまう、つまりデフレ脱却もできないというのであれば、物価のコントロールは日銀の金融政策だけではできないことを露見させてしまうことになるのではなかろうか。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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