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アベノミクスからバンザイノミクスへの懸念

久保田博幸金融アナリスト

日銀のサイトにアップされた11月13日の宮尾審議委員記者会見要旨も興味深いものとなっている。記者の質問のなかに「英米の市場関係者の間では、追加緩和による事実上の国債全額買い取りという明確なマネタイゼーションと、増税延期という組合せをバンザイノミクスという国債暴落政策として懸念する見方も出ている」との発言があった。このバンザイは解散も意味しているとともに、国債そのものをバンザイするとの意味合いのようで、なかなか面白い造語である。

さて、記者の質問は当然ながら10月31日の追加緩和に、なぜ宮尾委員は賛成したのかに焦点があてられていた。これについて宮尾委員は、これまでの「量的・質的金融緩和」の効果はしっかりあり、中長期の予想インフレ率も全体としては、この間上昇してきており、デフレマインドの転換も着実に進んできたとしながら、

「そうした中で、このひと月、ふた月ですが、原油価格の下落がより顕著になってきた影響、あるいは増税後の需要面の弱めの動き──いずれも一時的な要因とみられるわけですけれども──、それらは物価の下押し要因として作用してきており、これまで順調に進んできたデフレマインドの転換が後戻りするリスクがあると考えました」

これは講演の要旨にもあったものではあるが、原油価格の上げ下げで、異次元緩和の効果は薄れるものであったのであろうか(そもそも異次元緩和に円安以外に物価を上げる効果があったのかはさておき)。しかも、一時的な要因によるものに対して。新たな異次元緩和をぶつけることに問題はなかったのか。今後は同様な物価下落要因が出てくると追加の異次元緩和を何度も仕掛けてくるというのであろうか。

「デフレマインドの転換が後戻りするリスクを未然に防ぐ、好転している期待形成のモメンタムを維持するということは極めて重要であると考えました」

講演では「デフレマインドの転換が遅延する」としていまだ転換していないような表現となっていたが、いったいどちらなのか。たぶんこれは誰も答えられないはずである。そもそもそれは計りようがない。そのようなもののために金融政策を大胆に実施することに対してのリスクは感じないのであろうか。

宮尾委員は「国債金利の見通しについては、経済・物価情勢の改善を伴う形で今後推移していく可能性が高いと考えております」と会見で述べていたが、一見当たり前にみえるこの発言も大きな矛盾を抱えている。宮尾委員は 中長期の予想インフレ率も全体としては、この間上昇してきたと指摘していたはず。それがまったく国債金利に影響を与えていないことをどう説明するのか。むろん答えは、日銀が国債買い入れを行ってそれが金利に低下圧力を加えているためとなろうが、異次元緩和後もまったく動かなかった長期金利の意味するものはデフレマインドがまったくもって転換していかったことを示していると捉えることもできるのではなかろうか。

記者からの出口に対する質問も出ていたが、いまは出口どころではない。消費増税の延期と結果としてセットになってしまった異次元緩和第二弾は、繰り返し記者の質問にもあったように「国債が暴落するという財政の信認を失う事態」になりかねない。国債がバンザイボンドになってしまうリスクはないのか。それについては「消費税率引き上げが先延ばしされる可能性についての全て仮定に基づく議論ですので、そういった仮定に基づくご質問に対して、答えることは適切でもありませんし、私からコメントするのは差し控えたいと思います。」と宮尾委員は答えている。

QQE2に加えて、消費増税延期の可能性が強まっても国債市場は比較的落ち着いている。しかし、本当に市場参加者は落ち着いているのであろうか。

異次元緩和での物価目標達成が無理なことを、さらなる異次元緩和で蓋をした日銀。その日銀の動きもうまくとらえ、円安株高という環境を生かしての解散総選挙。それは安倍政権のレームダック化を覆い隠すための選挙とも言える。そのためには日銀の意向を無視してまでも消費増税も先送りさせることで、争点をうまく移し換えた安倍政権。これはいったい何を招くのか。

株は確かにリフレ政策に単純に反応している外国人投資家主体の買いにより株先主体に上がってきていた。円も売られやすい地合いになっている。この円安株高が根本的な問題も覆い隠してしまっている。バンザイノミクスは果たして杞憂に終わるのであろうか。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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