ロシア危機再来の可能性はあるのか
相場の流れに変化が生じているのを見分けるのは難しい。現在の動きが一時的なものなのか、それとも大きなトレンドが変化しているのか。これはある程度、時間を置かなければ確認はできないが、トレンドが変化しているのならば早めに行動を起こす必要もある。
今回の原油価格の下落による金融市場への影響は、いまのところサブプライムショック、リーマンショック、ギリシャショックと呼ばれた百年に一度の金融経済ショックに比べれば、そのショックの度合いはまだ小さい。しかし、大きなショックを引き起こす可能性もありうる。
ここにきてのWTI先物の下げ方は、2008年7月からの急落に匹敵するような動きとなっている。このときは2007年1月の50ドル近辺から7月にかけて140ドルに上昇した反動であった。この際には2008年末にかけて30ドル台前半にまで急落していた。
今回は、米国のシェールガスに対抗するためサウジアラビアなどが価格下落を意識して減産を阻止していることが、原油価格下落の最大の要因となっている。いまのところ、どのあたりまで下落するのかは見えてこない。WTIが50ドルを割り込むと、30ドル台あたりまで下落する可能性も月足チャートなどをみるとありうる。
この原油価格の下落は、産油国ロシアの実態経済に影響を与える恐れがある。ルーブルはドルに対して最安値を更新し、株価も大きく下落した。ロシア中央銀行は11日に、ルーブルの下落に歯止めをかける必要があるとし、政策金利を9.5%から10.5%へと引き上げていたが、16日には10.5%から17%に大きく引き上げた。この動きから見ても、かなりの危機感を抱いていると思われる。
16日にはタイの株価も急落し、一時も9%以上も下落する場面があった。資源関連株の比重が大きいマレーシアやインドネシアの株も下落するなど、原油安は新興国にも大きな影響を与えつつある。
タイやロシアといえば、1997年5月にタイの通貨バーツの暴落がきっかけとなったアジア危機、そして1998年のロシア危機が思い起こされる。
1997年のアジア通貨危機の影響もあり、ロシアの輸出の8割を占める天然資源、なかでも原油価格の下落により、国際収支が悪化し、それまでの財政の悪化にさらに拍車をかける結果となり、ルーブルが急落し、ロシアからの資金流出が発生した。
1998年の際にもロシア中銀は超高金利政策を打ち出すものの効果なく、ルーブルの目標相場圏を拡大し、民間の対外債務支払を90日間凍結する声明を発表したが、むしろこうした措置が不安心理を煽る結果になり、ルーブルはさらに急落した。ロシアが資本主義体制へ移行して間もなく、ロシアの銀行の多くは海外から米ドル建てで資金を調達していたことで、ルーブルの暴落と共に破綻した。
そして、ロシアの金融危機がユーロに影響を与え、またメキシコが大幅な金融引き締めをせざるを得なくなったように中南米へと影響が広がり、資金の貸し手となっていた欧米などの債権者は大きな損失を蒙った。これにより先進国で唯一景気がしっかりしていた米国にも影響が及んだ。
ロシア危機が再来する可能性はあるのか。たしかに1998年の状況と似たところはあるものの、1998年の教訓もありロシアも積極的な対応を取ることも考えられる。ただし、歴史は繰り返すこともある。当時のロシアと現在のロシアでは環境はだいぶ異なっているが、原油価格の影響を受けやすいことには変わりはない。この歴史を見る限り、ロシア、さらには中南米やアジアの今後の動向も念のため注意しておいたほうが良さそうである。