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中央銀行が注視するのは自国の物価や経済

久保田博幸金融アナリスト

コラムを書いていて、ご質問やご意見をいただくことがある。最近、興味深いご意見をいただいたので、それにお答えする形で現在の世界の中央銀行の動向を考えてみたい。いただいたご質問は以下のようであった。

「世界の安定の為には日本国債の安定性を犠牲にしても、米国債とドル機軸体制を堅持するべきであり、日銀の追加緩和もECBの量的緩和突入も、キャリートレードの資金を作り出す事で、FRBの利上げで確実に低下する資金供給をバックアップする目的があるのではないでしょうか」

FRBはすでにテーパリングを終了し、今年6月にも正常化、つまり利上げを決定する可能性が強いと思われる。すでに流動性供給という側面ではFRBの役割は後退しているが、FRBのテーパリング終了を前に、日銀は第二弾の異次元緩和でさらに流動性を供給し、ECBも今年1月の理事会で国債買入による量的緩和策の導入を決めた。

この動きは確かに、米国やすでに量的緩和拡大を中止しているイングランド銀行に代わり、日銀やECB、スイス中銀、デンマーク中銀などが世界に流動性を供給し、その結果、株価を下支え、米債も支えているとの見方は可能かもしれないが、それはあくまで結果論に過ぎない。

中央銀行の金融政策を見る上で注意すべきは、それぞれの国の中央銀行は国際機関でもなく、自国の中央銀行であり、自国通貨の信認や価値を守り、自国の金融取引が円滑に行われるようにすることが主な仕事である。他の国の金融経済、さらには株価や国債価格を支えることは仕事ではない。もちろん国際協調も重要ではあるが、その大前提は自国の経済や物価、金融システムの安定性にある。つまり、FRBにとって変わって日銀やECBが流動性供給を行うというような意識はないはずである。

合成の誤謬という言葉があるが、それぞれの中央銀行が自国の金融経済のために行った政策がたまたま世界への流動性供給を継続させているに過ぎない。

たとえば日本のことを例にとれば、2014年10月の第二弾異次元緩和は原油価格の下落により物価目標達成のための予想物価の低下を食い止めるというのが表面上の目的であった。現実にはFRBのテーパリング停止決定に合わせ、FRBと日銀の金融政策の方向性の違いを鮮明にさせて「円安」にすることが目的であったと推測される。すでに日銀とすれば円安に頼らざるを得ない状況に追い込まれていたとの見方もできる。ECBやデンマーク、スイスもやはり金融緩和の目的が自国通貨安となっている。

ここにドルや米国債の買い支えなどは意識されず、自国の物価を上昇させ、景気を回復させるためには何か必要なのか。その結果が現在の日本やECBなどの追加緩和であった。

ただし日銀については、大胆な金融政策で、レジームがチェンジし、物価予想が上昇すれば、簡単に物価は目標を達成し、そこで安定させることができるという政策を打ち出してしまった。

世界の金融政策はあのバーナンキ元議長すらもかなり柔軟性のある金融政策としていたのに、現在のリフレ派主流の日銀はその柔軟性が過去の日銀の金融政策の効果を妨げていたとばかり、頑なな政策をとっている。

しかし、さすがに原油安による物価上昇の抑制については、ある程度享受せざるを得ないとの見方に変わりつつあるが、それでも物価目標を掲げ、その達成が仕事になってしまった日銀は多くの矛盾も抱えつつあり、米国債の買い支えなどは全く意識してはいないと思われる。ただし、円安政策のひとつ手段としての意識はあるのかもしれないが。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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