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日銀の轍を踏むのかECB

久保田博幸金融アナリスト

ECBは3月5日の政策理事会において、主要政策金利であるリファイナンス金利は0.05%に、上限金利の限界貸出金利は0.30%に、下限金利の中銀預金金利もマイナス0.20%にそれぞれ据え置いた。

理事会後の会見で、ドラギ総裁は3月9日から国債買い入れを開始することを明らかにした。対象になるのは月額600億ユーロの国債、および一部民間部門資産となる(総額1兆1000億ユーロ)。国債買い入れは当面、2016年9月まで継続し、必要なら延長も視野に入れる。買い入れる国債の利回りは、中銀預金金利のマイナス0.20%までとした。

特に買入対象国債の利回りはマイナスも可能となったことが好感され、5日のユーロ圏の国債はドイツの2年債以外軒並み買われた。参考までにドイツの2年債利回りはすでにマイナス0.2%を下回っていた。ドイツの10年債利回りは0.35%に低下し、10年債利回りはフランスが0.64%、イタリアが1.30%、スペイン1.27%、ポルトガル1.77%、ギリシャは9.16%となった。

5日の10年債利回りは英国が1.86%、米国が2.12%、日本は5日の引けは0.40%となっている。

ドラギ総裁は、この会見の時点で同プログラムの勝利を宣言したそうである。ドイツなどの反対を押し切って、こつこつと各国の根回しも行い、やっとのことで念願の量的緩和政策の導入に踏み切れたことでの強気発言であったのであろうか。

そういえば2013年4月5日の日銀金融政策決定会合後の記者会見では黒田総裁は次のように発言をしていた。

「今回、必要な措置は全て採ったと言ってよいと思います。もちろん、経済も金融も生き物ですので、その時々の状況をみて、必要があれば躊躇なく調整していきますが、2 年で 2%の物価安定目標を達成するために、現時点で必要な措置は全て決定したと考えています。」

ドラギ総裁にとっても同様の思いに違いない。2月のユーロ圏のCPIは前年比マイナス0.3%となっており、今回公表されたECBのインフレ率の予想では、今年のインフレ率見通しは「0.0%」と12月予想の「0.7%」から引き下げられ、2016年はプラス「1.5%」と12月予想のプラス1.3%から引き上げ、2017年は「1.8%」としている。

参考までに日銀の異次元緩和第一弾後の2013年4月26日の日銀の展望レポートによると、2013年度の物価見通しは前年比プラス「0.7%」、2014年度プラス「1.4%」(消費増税の影響を除く)、2015年度プラス「1.9%」(同)となっている。

まるでECBの予想はこのときの日銀の展望レポートを参考にしたかのような数字である。ちなみに2015年1月のコアCPIは前年比プラス0.2%である。残念ながら異次元緩和時に予想したプラス1.9%には届いていない。

ECBの国債買入が材料視されて、ユーロ圏の長期金利はポルトガルあたりまで英国や米国の長期金利を下回るという異常事態となっている。もちろんこれは需給への期待が背景にあるが、これは国債バブルとしか見えない。

いずれこのバブルは崩壊することが予想される。しかし、同じくバブル相場といえる日本国債もさすがにマイナスの利回りは異常との認識となったようだが、簡単には大きな調整は入ってこない。その分、エネルギーが蓄積されている可能性もある。オオカミ少年といわれるかもしれないが、ユーロ圏の国債の動向には注意を払うべきであり、その動向次第では日本国債にも動揺を与える可能性もありうる。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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