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ECBは何のために国債を買い入れているのか

久保田博幸金融アナリスト

ECBはどうやら3月9日から国債の買い入れを始めたらしい。「らしい」と言うのは、日銀のようにオペレーションで買入額を提示して購入するのではなく、ユーロ圏のそれぞれの中央銀行が直接、金融機関から買い入れているらしく、実際にどのような国債をどれだけ購入したのかは明らかになっていない。

念のため確認しておくと、ECBは3月9日から国債買い入れを開始した。その対象になるのは、国債と一部民間部門資産。既に実施しているカバードボンド、ABSの買入プログラムと合わせて月額600億ユーロ。国債買い入れは当面、2016年9月まで継続し(総額1兆1000億ユーロ)、必要なら延長も視野に入れる。買い入れる国債の利回りは、中銀預金金利のマイナス0.20%までとした。国別の国債買入額は各国中央銀行によるECBへの出資比率に応じ決められるそうである。

ECBのクーレ専務理事によると、QEプログラム下で実施した国債買い入れの総額を毎週公表するとともに、各国の詳細について毎月公表するとした。つまりその発表があるまでは具体的にどの国債をどの程度購入したのかはわからない。

ブルームバーグによると、ユーロ圏の中央銀行は(ECBではなくたとえばブンデスバンクなど)、ECBのプログラムの下でマイナス利回りのドイツ5年債を含む国債を購入したと、取引に詳しい関係者3人が匿名を条件に明らかにした。ベルギー債とイタリア債購入も実施されたとか。

9日と10日のユーロ圏の国債の買い入れに関しては、高格付け国の中銀の方が周辺国の中銀よりも活発に買い入れを行ったとされる。ユーロ圏の国債残高はイタリア、ドイツ、フランスが圧倒的に多い。また、売り手の多くは非居住者の投資家という指摘もあった。

たとえば為替介入については、日本では財務省が指示し、日銀が金融機関と取引するが、これについて完全な守秘義務があり、それを破ると日銀との取引ができなくなる恐れがある。株式市場にとって最大の注目材料ともなっているGPIF、いわゆる公的年金も守秘義務を徹底させている。日銀の国債買入も具体的にはどの金融機関がどの程度、国債を売却したのかは明らかではないが、ある程度の年限と総額はわかる。また、新発債が入っていたかなどの情報も出てくる。

ECBの国債買入について、多少なり情報が流失しているところをみると、為替介入ほどの厳格な情報管理がされているわけではなさそうだが、それでも全体像が把握できていないことは確かである。むしろそのほうが市場への思惑も出やすくなり、効果はあるとの見方も可能か。現実に9日から10日にかけて、ドイツ、オランダ、オーストリア、フィンランド、イタリア、スペイン、アイルランドなどの国債利回りは過去最低を記録している。しかし、この買入の効果がいつまでも持続することも考えづらい。

今回のECBによる国債の買い入れの目的ははっきりしていない。すでにマイナスとなっている長期金利のさらなる低下を促すとしても、実体経済に与える影響は限られよう。日銀のようにマネタリーベースを増加させて期待を強めて物価を上げるというのが目的でもなさそうである。非居住者の投資家からの買入が多いとなれば、それもユーロ売りの要因となるが、今回のECBの国債買入の主目的はユーロ安を促すものとの見方もできる。しかし、ドラギ総裁の目的が国債買入をすることそのものであるように見えなくもない。

イングランド銀行のカーニー総裁は3月10日の議会委員会において、原油安を背景とするインフレ低下への対応で、追加の金融刺激を行うことは「極めて愚か」との考えを示したそうである。総裁はその理由として「追加刺激の効果は、経済に原油安の影響が及んだかなり後になって表れるため、単に不要なボラティリティーを増大させるだけだ」と説明した(ロイター)。

日銀もECBもデフレを懸念しての異次元緩和を実施しているとすれば、その物価への効果のほどはさておき、不要なボラティリティーを増大させるであろうことも確かであろうか。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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