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フィッチによる日本国債格下げについて

久保田博幸金融アナリスト

格付け会社のフィッチ・レーティングスは4月27日に、日本の外貨建ておよび円建て長期発行体デフォルト格付をA+からAに格下げした。これはつまり日本国債の格付けを21段階あるうち上から5番目のAプラスから、Aに1段階引き下げたことになる。

フィッチは今回の格下げ理由として、延期された消費税増税に代わる十分な構造的な財政措置が含まれていないことを挙げている。

昨年12月に格付け会社のムーディーズ・インベスターズ・サービスは日本の政府債務格付けをAa3からA1に1ノッチ格下げしており、それに続いてのものとなる。

12月のムーディーズによる日本国債の格下げも、今回のフィッチによる格下げも日本の国債市場にはほとんど影響を与えていない。国内投資家でも運用における格下げの影響はまったく受けないわけではないものの、その影響は限定的とみられる。

格付け会社による国債の格付けについては、市場での需給がタイトとなっているなかで、強固な信用力が維持されているとみられている間には、市場への影響は軽微となる。フィッチも日本の財政には弱みや脆弱性があるものの、政府の極めて高い資金調達の柔軟性は格付を支える要因となっている、と指摘している。

政府による資金調達を楽にさせている最大の要因が、現在は日銀の国債買入となっている。これがむしろ今後の最大の不安要因でもある。日銀に果たして出口が残されているのか。日銀に代わる国債の買い手が存在しているのか。むろん、現在は国債の保有者が民間金融機関から日銀にシフトしているだけで、それが元に戻れば済むとの見方もできなくはないが、そう簡単には言い切れない。公的年金などの資産保有比率の変更、銀行ではBIS規制による影響、そもそも利回りが低すぎる等などから、日本国債を保有しづらい環境になっている確かではなかろうか。

国債の格下げは市場の地合いがしっかりしているときにはあまり影響を与えなくても、いったん不安が生じると、格下げが火に油を注ぐことになる。これは2010年のギリシャの国債の動向をみれば明らかである。

国債格付けはあくまで民間会社の勝手な判断ではある(勝手格付け)。しかし、それを完全に無視することはできない。日本国債の置かれた状況を確認する意味でも、その格付け変更の理由等は確認しておく必要があろう。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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