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米利上げは12月と予想する理由

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

16日、17日のFOMCの結果に注目が集まっている。言うまでもなく利上げの有無が焦点となっている。個人的には9月17日のFRBの利上げはないとみているが、その根拠は経済データや市場動向などによるものではない。FRBはテーパリングから利上げに向けてかなり周到な準備を進めてきたと思われるためである。つまり余程の金融ショックなど予想外の事態の発生がなく、雇用等の数字に明らかな黄色信号が点滅でもしない限り、事前のロードマップに描いたスケジュールに沿って出口戦略を行っていると思われるためである。

今回の利上げに向けたFRBの動きをみるにあたって参考にすべきは、2013年のFRBがテーパリング決定にいたる過程である。当時はバーナンキ議長、イエレン副議長という布陣であり、この二人を中心にテーパリングの準備を進めていたと思われる。

2013年5月にバーナンキ議長はテーパリングを示唆した。これを受けてバーナンキ・ショックと呼ばれる市場の動揺が起きた。しかし、ある程度の動揺は想定していたとみられる。ただし、時期に関しては慎重に選択していた節も伺える。バーナンキ議長は2015年7月のG20を欠席した。財務相と中央銀行のトップが集う会議に主役のひとりともいえるFRB議長が欠席するのは異例といえる。さらに異例は続く。

2010年8月27日にバーナンキ議長(当時)はQE2を示唆する講演をジャクソンホールで行った。米国ワイオミング州ジャクソンホールで開催されるカンザスシティ連銀主催のシンポジウムは市場がかなり注目している場であることがここからも伺える。ここではある程度マスコミ等から遮断されての意見交換の場もあるとみられている。これには著名学者などとともに各国の中央銀行首脳が多数出席することで、金融関係者によるダボス会議のようなものとなっている。

そのジャクソンホールの2013年のシンポジウムに主催者ともいえる(形式上はカンザスシティ連銀主催)バーナンキ議長が欠席していた。市場では2013年9月のFOMCでテーパリングを決定するとの見方も強かったこともあり、その裏を取らせないようにしていたのかもしれない。しかし、実際にテーパリングを決定したのは2013年12月である。なぜ9月ではなく12月にしたのかは、今は憶測するほかないが、市場の動揺を見てではなく、当初から12月に標準を合わせていた可能性もある。そのあたりを探られるのを避けての欠席とも言えるのではなかろうか。そしてテーパリングそのものは市場の動揺を与えることなく成功裏に終わった。

今年8月27日から29日にかけて開催されたジャクソンホールのシンポジウムにイエレン議長は欠席した。さらに9月4日から5日にかけてトルコで開催されたG20にもイエレン議長は欠席している。これも極めて異例と言えよう。果たして2013年のバーナンキ議長、2015年のイエレン議長の両イベントの欠席は偶然であろうか。

2013年のテーパリング開始決定にむけての周到な準備とその結果を見る限り、そのときの主要メンバーでもあったイエレン議長を中心にこの時と同じようなスケジュールを、今回は出口に向けて組んでいたとしてもおかしくはない。これほど重要な決定をその場の勢いで決めるとは考えられず、周到な準備が進められていたと見る方が自然ではなかろうか。2013年の市場の動きなども十分に分析をしていたはずである。

2013年に市場が動揺したのは5月から9月にかけてであり、特に米債の下落が大きかった。今年は8月以降に株式市場を中心に動揺が起きている。このあたりに違いはあれど、今回も9月ではなく少し余裕を持たせての12月、というよりイエレン議長の行動からも当初から12月をターゲットにしていたのではないかと個人的には考えている。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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