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FRB理事による利上げ慎重発言の真意

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

FOMCの投票権のあるメンバーは理事会から7名の理事全員と、地区連銀から5名の地区連邦銀行総裁の合計12名によって構成される。現在のFRB理事の布陣は、ジャネット・イエレン議長、スタンレー・フィッシャー副議長、ダニエル・タルーロ理事、ジェローム・パウエル理事、ラエル・ブレイナード理事の5名である。FRBの理事会は本来、7人の理事で構成されるが現在空席が2つある。

地区連銀の投票権のあるメンバーについては、ニューヨーク連銀だけが理事と同様に常に投票権を有するが、ほかの連銀は年ごとに交代制となる。2015年の連銀メンバーは、ダドリー・ニューヨーク連銀総裁、エバンス・シカゴ連銀総裁、ラッカー・リッチモンド連銀総裁、ロックハート・アトランタ連銀総裁、ウィリアムズ・サンフランシスコ連銀総裁となる。

ブレイナード理事は10月12日に、世界経済の減速や中国での混乱など国際リスクが米経済の足かせとならないことが明確になるまでFRBは利上げを見送るべきとの考えを示した。また、タルーロ理事は10月13日にCNBCとのインタビューで、年内利上げの可能性について問われ、「米経済の先行きに関する私の予想を踏まえると、利上げが適切になるとは考えていない」と答えた。

イエレン議長は9月24日の講演において、2015年中のいずれかの時点での利上げが適切になるとの見解を示し、FOMCメンバーの中で年内利上げを支持するグループの中には「私自身を含む」と明言していた。

フィッシャー副議長は10月11日、米経済が年内の利上げ実施に値する十分な力強さを備えている可能性があるとの認識を示した。ただし、利上げの正確なタイミングを決定する上で当局は国内の雇用の伸び鈍化や国際情勢を注視しているとも述べている。

ニューヨーク連銀のダドリー総裁は、世界経済の成長鈍化によってインフレ見通しが損なわれない限り、米金融当局は年内に利上げを実施するとの見通しを示した。さらに15日にはFRBの市場との対話は十分ではなかったとの認識を示しながらも、FRB当局者の間で意見が割れているとの見方を否定。FRB内に意見の対立があるとの見方は「誇張されている」とし、「われわれは皆、まったく同じ認識を持っている」と述べていた(ロイター)。

FOMCの金融政策を決めるのは当然、多数決ではあるが、政策変更時にはいわゆる執行部がその方向性を決めているとも言える。ただし、イングランド銀行では議長が少数派に回ることもある。しかし、FOMCやECB理事会、そして日銀の金融政策決定会合では議長を中心とした執行部の意向により方向性が決められていると言ってもおかしくはない。

つまりFOMCで利上げという大きな政策変更を決定する際には、イエレン議長とフィッシャー副議長、ダドリー総裁あたりが中心となり、そこに他の理事も含めて、通常であれば一枚岩となって政策が決定される。これで数の上では、他の連銀総裁が全員反対しても賛成多数は維持される。つまり通常は理事もイエレン議長の意向をかなり意識しているはずであるが、年内利上げという観点からは、少し意見に食い違いが生じているように見える。このため、ダドリー総裁はあらためて一枚岩であることを強調せざるを得なかったようにも思われる。

これは年内利上げの可能性は維持しているものの、海外動向にも配慮して、かなり慎重に行うであろうことを示唆しているのか。それとも年内利上げに対し、理事からの反対者が出る可能性を示しているのか。少なくとも10月のFOMCで利上げ決定の可能性はないとみられるが、本命とされる12月のFOMCでの利上げの可能性そのものが本当に後退したのか。個人的には当初描いたと見られるスケジュールに沿って淡々と利上げを進めるとの見方に変化はない。その際にはブレイナード理事とタルーロ理事も利上げへの賛成票を投じると思われる。それでも今回の二人の理事の発言はかなり慎重に捉えておく必要もあろう。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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