日銀の次の手の存在
10月30日の日銀の金融政策決定会合において、金融政策は8対1の賛成多数で現状の政策の維持を決定した。会合後に公表された展望レポートにおいて物価目標の2%程度に達する時期について「2016年度後半頃になると予想される」と後ずれさせた。これを予想して一部に追加緩和期待も出ていたが、結果は現状維持となった。
会合後の定例の日銀総裁会見において追加緩和に関する質問が出ても、黒田総裁はこれまで通りの発言を繰り返しており、それを示唆することもなかった。
たとえば日銀の国債買入がそろそろ限界ではなかとの質問に対し、黒田総裁はそんなことはないとして英国のイングランド銀行を例に挙げていた。7割という数字が聞こえていたような気がしたが、どの時代のものかはわからない。ただし、黒田総裁は以前に発行済みの国債のうちイングランド銀行が保有している英国債は約40%あったことを2014年11月に述べている(日銀サイトにアップされた黒田総裁の会見要旨によると、「確かBOEは、国債発行額の7割ぐらいまで買い進んだと思いますが」とあったが、これに注釈が加えられ、「BOEの国債買入れ額は、正しくは、国債発行額の約4割でした。」とあった。総裁会見でこのような修正が入るのは極めて珍しい)。
現在の日銀の国債発行残高に占める保有割合は3割弱であり、まだ4割にも達しておらず、あくまで数字上ではあるが、もし仮に4割になったとしても、あと100兆円程度の買入が可能となるわけではある。しかし、これは現実には難しい。
すでに国債の年間発行額(残高ではない)の9割近くを買い入れており、来年度は日銀保有の国債の償還分を含めると10割近い買入となる可能性もある。さらにそこから買い増すとなれば、すでに民間金融機関が保有している分を引きはがすことになる。ゆうちょ銀行やかんぽ生命あたりからの売却余裕額は、その保有比率の変更等次第となるが、ある程度の額はありそうであるが、こちらも限界はある。
そもそも論として、中央銀行が国債を何百兆と買い込んでも、物価目標達成ができなければ意味のないことである。日銀の国債保有額は短期債を除いたものでみると異次元緩和前の2013年3月末が100兆円弱であり、2015年6月末が250兆円弱と2.5倍に増えたが、目標とする物価はコアCPIで比較すると、2013年3月がマイナス0.5%で2015年6月がプラス0.1%、9月にはマイナス0.1%でしかない。
つまりこれからさらに量を重ねてもこの結果を見る限り意味はない。これが日銀の異次元緩和のひとつの限界を形成しつつある。追加緩和による円安も政府は臨んでおらず、通貨安に働きかけるとなれば、日米政府を相手にする必要も出てくる。
10月30日の金融政策決定会合は異例の早さで終了している。これは金融政策に関しては踏み込んだ議論がほとんどされなかったことを意味していると思われる。日銀総裁の会見もこれまで通りの姿勢を維持した。しかし、このまま日銀が手を拱いているとも思われないことも確かである。
政府からの追加緩和に対する直接のプレッシャーはいまのところはない。しかし、物価目標から大きく乖離していることも事実である。これに働きかけるには(それが可能かどうかはさておき)少し別のマジックも必要となる。11月の政府の政策などと呼応して何かしらの追加緩和策を模索している可能性はありうる。あまりにもあっさりとした決定会合と会見であっただけに、何か潜ましているのではないかとも勘ぐりたくなる。