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市場の期待の流れを変化させるFRB

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

3月29日のニューヨークでの講演においてFRBのイエレン議長は、海外経済と国際金融情勢の不確実性がリスクとなり続けると指摘し、今後の利上げに関しては海外経済のリスクを考慮して慎重に進めるとコメントした。ただし、利上げを進めるというシナリオを大きく修正したわけではない。

FRBは12月に公表された政策金利の見通し、いわゆる「ドット・チャート」では、2016年に0.25%の4回の利上げの可能性が示唆されていた。これが今年3月の「ドット・チャート」では年2回分に修正されていた。

ドット・チャートがFRBの政策見通しを伝えるものではなく、あくまでメンバー個々の見通しの集計に過ぎないながらも、市場ではこれをFRBの金融政策の道筋を示すものとして解釈している。FRBとしてもこの見通しの数字をかなり意識している面もあると思われる。

昨年12月の時点では四半期ベースの利上げの可能性を意識していたFOMCメンバーが多かった。ところが現実問題としては2006年の日銀のゼロ金利解除の際の利上げペースもかなり慎重となったように、せいぜい半年に一度ぐらいのペースになるのではないかと個人的には見ていた。

今年に入ってからの国際金融市場では、中国経済への懸念や原油価格の下落などにより、リスク回避の動きを急速に強め、世界的な株安等を招くことになった。これはFRBの利上げそのものも影響している可能性があった。FRBの正常化により過剰流動性相場が終焉しつつあり、新興国からの資金引き上げなども要因となったことは確かであろう。

FRBに3月に利上げの意図があったのかどうかは定かではないが、3月のFOMCでは金融政策は現状維持とした上で、ドット・チャートにて今後の利上げのペースを緩やかなペースに修正され、それを市場に示した格好となった。

これを市場は好感し、原油価格の下げ止まりもあり、世界的なリスク回避の動きは後退した。欧米の株式市場は年初の水準を上回るまでになった。ただし、FRBとしては利上げそのものを停止するわけではないものの、市場ではこの一連の動きからFRBの利上げは困難との見方も一部に出ていた。

これに対して牽制球が投げられた。投げたのは地区連銀の総裁であった。アトランタ連銀、サンフランシスコ連銀、シカゴ連銀の各総裁に続き、フィラデルフィア連銀のハーカー総裁、セントルイス連銀のブラード総裁も利上げについて前向きな発言をしたのである。これは4月のFOMCでの利上げの可能性を示すというよりも、FRBは正常化というベースとなる路線は放棄したわけではないことを示すことが狙いであったのではないかと思われる。

ただし、4月のFOMCで利上げをするのかどうかはまだ不透明であり、むしろ議長会見のある6月の可能性もありうることで(個人的には6月の可能性が強いとみている)、あまり市場が前倒しでの利上げの可能性を意識させることに対してもブレーキを踏ませようとしたのが、今回のイエレン議長の発言であったように思われる。もしそうであれば、31日に予定されているニューヨーク連銀のダドリー総裁の講演内容も、今回のイエレン議長の発言と似た趣旨になると予想される。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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