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強まるECBや日銀の金融政策への懸念

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

4月21日のECB理事会では市場で予想されていた通りに、金融政策の現状維持が決定された。ドラギ総裁は会見で「物価安定の見通しの進展を注視し、必要に応じて責務の範囲内で利用可能なあらゆる手段を利用して対応する」と述べ、政策への批判に対しては「ECBの政策は機能しているし効果的だ。時間を与えて欲しい」と述べていた。また、ヘリコプターマネーに関しては検討も協議もしていないと発言した。

ドイツなどからの批判に対しては、「ECBの金融政策を説明する一助となるため、丁寧かつ活発な議論は歓迎できる。ある種の批判はECBの独立性を脅かしていると受け取られ、投資やリスクテークを後退させる恐れがある。」「ECBは独立した機関だ。(ECBの独立性を脅かすと受け取られるような批判によって)望む結果を得る時期は遅れることになる。」と指摘した(ロイター)。

これに対してドイツのメルケル首相は21日、ECBの低金利に対するドイツ国内の批判は正当化されるとし、ECBの独立性への介入にはあたらない、との見方を示していた。

ECBのマイナス金利政策に対しては、それほど批判は目立っていなかった。しかし、ここにきてドイツなどを中心に批判が強まりつつある。ドラギ総裁は時間がほしいと指摘しているものの、その効果は目に見えて現れていないだけでなく、金融機関などへの悪影響が強まりつつある。

ロイターが日本で実施した企業調査(資本金10億円以上の中堅・大企業400社を対象に4月1日~15日に実施。調査対象企業は400社で、うち回答社数は245社程度)によると、日銀のマイナス金利のさらなる拡大について、賛成との回答は22%に止まり、反対は78%となっていた。ロイターによると「導入は失敗だったと思われる」(運輸)、「マイナス金利で改善されたものがない」(化学)、「効果が疑問視されている」(鉄鋼)などといった声が聞かれたそうである。

21日の日本の短期金融市場では一部の国庫短期証券の利回りが一時マイナス1%台まで急低下するなど異常な現象が起きていた。これはいわゆる日銀トレードが引き起こした現象とみられる。ここにきて20年国債、30年国債、40年国債がそれぞれ過去最低利回りを更新するなど、期間リスクに応じた金利というよりも、プラス金利だから買われるという異常な状況が続いている。これにはファンダメンタルなどほとんど関係なく動いているため、国債の価格発見機能が完全に喪失したばかりか、日銀のマイナス金利政策により見えないリスクが積み上がっているともいえる。

21日の欧州の国債はドイツをはじめフランスやオランダ、イタリアやスペインの国債も売られ、英国債の利回りも大きく上昇した。ドラギ総裁から追加緩和の示唆もなく、発表された社債購入計画で買入の軸が国債から社債などに移行かとの思惑もあったようだが、ECBの金融政策そのものに対しての懸念が出ている可能性はあるまいか。外為市場でもユーロは不安定な動きを示したようだが、欧州の国債もやや不安定な相場になる可能性がある。これは日本の国債市場でも同様の懸念がある。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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