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議事録に見る2006年3月の量的緩和解除

久保田博幸金融アナリスト
(写真:Natsuki Sakai/アフロ)

日銀は金融政策決定会合の2006年1月~6月開催分の議事録を公表した。この期間のなかでは2006年3月の会合で日銀は2001年3月から始まった量的緩和政策を解除している。解除にあたりどのようなやり取りがあったのかを探ってみたい。

ちなみにこの時の総裁は福井氏、会合に参加した理事には白川前総裁、企画局企画役として現在の企画局長の内田氏、金融市場局長として現在の副総裁の中曽氏の名前も並んでいた。

当面の金融政策運営方針の決定に関しては、最初の福井議長からの話のなかには「量的緩和の枠組みをいつ解除することは別にしても」といった風なコメントに止めており、それを示唆していたわけではない。しかし、そのあとの発言順が岩田副総裁で始まり、武藤副総裁で終わっている。少なくとも執行部である総裁・副総裁の3人で、ある程度の解除の方向性が事前に話し合われていれば、最初に岩田副総裁がアドバルーンを上げて、流れを示し、最後に武藤総裁で流れを決定づけてから、議長にバトンを渡すといった流れが予想された。

実際に岩田副総裁が最初に量的緩和の解除の条件は満たされているとし、「そういうことで解除することにしてはどうかと言う訳である」と発言した。どうも第三者的な発言に見えてしまう。そう言いながらもコアの物価はプラス1~2%が好ましいと説明しており、福井総裁に押し切られたのではないかと思われる。

審議委員のなかでは西村委員が賛成、中原委員は現状維持を主張し今回ではなくできれば展望レポートが公表される4月の会合で解除すべきとしていた。須田委員は通常の金融政策に転換することが適切ではないかと主張した。そして国債買入も減額するのが筋と主張した。解除推進派であった水野委員も量的緩和の3条件は満たされていると主張した。ただし、債券相場の調整が秩序だったものになるよう配慮する必要性も示した。ここも重要なポイントとなろう。春委員も解除が適切と主張した。

そして武藤副総裁は「量的緩和の枠組みを変更して、金融市場調節の操作目標を無担保コール翌日物とする金融政策に意向すべき」とした。さらに欠席していた福間委員も書面で量的緩和解除に賛成している旨、総裁からの発言があった。

その上で福井総裁は「2001年3月の量的緩和政策導入時に示されたいわゆる約束の条件が達成できると判断できる」とし、量的緩和政策の枠組みを変更し、金利を操作目標とする政策に移行することが適切だと私も判断するとした。私もというより私が判断したとも言うべきものであったのかもしれない。

その手段としては短期のオペで対応し、長期国債の買い入れについては、これまでと同じ金額、頻度で実施していくとした。なぜ長期国債の買い入れは減額しなかったのか。これについては各委員も触れているが、債券市場に過度のストレスを掛けたくない面もあったと思うが、国債買入を減額することの難しさもこれは示していると思う。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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