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FRBの追加利上げは2007年の日銀の追加利上げも参考に

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

FRBのイエレン議長やフィッシャー副議長、ニューヨーク連銀のダドリー総裁の発言から、年内の利上げ観測が高まりつつある。9月の可能性についてもやっと市場は意識し始めた。それでもまだ利上げはないと見ている向きも多い。金融政策の正常化は如何に難しいことなのかが、これからもわかる。

金融政策の正常化としては日銀に先例がある。2006年3月の量的緩和政策の解除と同年7月のゼロ金利政策の解除、そして2007年2月の追加利上げの決定である。

FRBはこの正常化に向けてかなり慎重に事を運んできた。2013年6月19日のFOMC後の記者会見において、当時のバーナンキ議長は、失業率が低下基調を維持するなどの経済情勢が見通しどおりに改善すれば、今年後半に資産購入プログラム(LSAP)の規模縮小をスタートさせるのが適当と見ていると述べた。これをきっかけに米国の株式や債券が大きく下落し、これは「バーナンキ・ショック」と呼ばれた。これでFRBがさらに慎重になった可能性もあるが、それでも正常化路線を進めるため、この年の12月のFOMCでテーパリングの開始が決定された。

テーパリングが終了したのが2014年10月となった。次のゼロ金利解除まではさらに時間を要し、利上げが決定されたのは2015年12月である。このあたりの時間の置き方を見ても、日銀の量的緩和とゼロ金利の解除に比べてかなり慎重となっていたことがわかる。これもあって次の利上げは少なくとも半年程度の時間を置くであろうとみられたが、結局は半年以上経っても次の利上げは見送られていた。しかし、正常化路線は放棄されていたわけではなく、あくまでタイミングを見計らっていたことも確かであろう。

日銀が2007年2月に追加利上げを決定した際に、執行部の一人であった岩田副総裁が反対票を投じていた。総裁と副総裁の票が割れることはイングランド銀行はさておき、日銀で起きたのはこれが最初で最後であった。

8月のワイオミング州ジャクソンホールで開催されるカンザスシティ連銀主催のシンポジウムの記事に使われた写真で印象的であったのが、イエレン議長を挟んでダドリー総裁とフィッシャー副議長が揃って談笑している姿であった。

これは2007年2月の追加利上げで執行部が一枚岩となれなかったことの反省を生かして、FRBの執行部が利上げに向けて一枚岩であることを象徴したいがための写真であったとするのは考えすぎかもしれない。しかし、FRBの執行部の方向性は同じであることを強調していることも確かである。それを各連銀総裁もフォローしている。ただし、もうひとりのキーパーソンとなっているブレイナード理事からのコメントはいまのところあまり表に出ていない。

あくまでFRBは足元の経済指標を確認して利上げを検討するというスタンスではあるが、少なくとも利上げが前提にあることも確かで、9月2日に発表される米8月の雇用統計がよほど悪化することがなければ、執行部を中心に9月のFOMCでの利上げ決定にむけて歩を進めると思われる。しかし問題はその次かもしれない。日銀は2007年2月が追加利上げの最後となってしまった。2007年8月にパリバ・ショック、そして2008年9月にはリーマン・ショックが起きている。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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