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ECBの時間稼ぎの政策と日米欧の長期金利の行方

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

12月8日のECB理事会では、政策金利は据え置いた。すでにこれ以上のマイナス金利の深掘りをしないことを表明しており、市場は資産買入の行方に注目していた。これまでの会合では買い入れ国債の不足についても時間をかけて討議されており、国債が不足した場合にどう対処すべきかといったことについても話し合われていた。しかし、ここで資産買入の3月末での終了を宣言するわけにもいかなかった。

デフレ観測は後退しているものの、イタリアの政治情勢への不透明感やイタリアやドイツの銀行に対する不安、さらには欧州でのポピュリズムや極右の台頭への懸念等もあり、ECBとしてもなかなか異常な緩和策から簡単に出口を模索できる状況でもない。ECBとしては時間稼ぎの策を打って出ざるを得なかった。

そのためのECBは国債の買い入れの範囲を拡げることを検討したようである。必要な範囲で中銀預金金利を下回る利回り水準の国債も買い入れることや、買入銘柄の残存期間を2年以上から1年以上にするなど、いわば日銀が昨年12月に行った補完措置のようなことを行った。

これにより国債の買い入れ余地を拡げたが、問題はその期間と月ごとの買い入れる量となった。日銀と違ってECBは年間で買い入れる額ではなく、FRBのように月々に買い入れる額を目標値に置いている。ドラギ総裁は月額800億ユーロの買い入れを半年間継続するという選択肢もあったことを示した。800億円を6か月延長するか、600億円に減額して9か月延長するのかの二択となったのかと思ったが、実際にはそうではなかったようである。

ロイターによるとECBのスタッフは月額800億ユーロの買い入れを半年間継続する案を出していたが、ドラギ総裁はこの案では過半数の賛同を得られないと認識していたようである。そのためスタッフは月額600億ユーロで1年延長を提案。だがドイツなどタカ派は600億ユーロで6か月延長を主張し、その中間となる9か月延長が決まったそうである。まるで売り手と買い手の値段交渉の結果の妥協点みたいなことが行われていたようである。

買入対象を拡げたこともあり、ある程度の買入枠は確保でき、より時間を稼ぐことができる。さらに月ごとの買入は「減額」を行うことで反対派の主張を盛り込んだ上、全体の買入額は当初のスタッフ案も上回るという摩訶不思議な結果となった。

欧州の債券市場はこの減額に反応し国債は売られたが、本来であれば追加緩和であるはずの今回のECBの措置に対して、材料出尽くしというよりも、金融緩和の限界も感じ取った動きとも言えまいか。今後、欧米の長期金利はFRBの利上げペースを見定めながらどこまで戻れるのか試してくることが予想される。

この欧米の長期金利の上昇は日本にも波及し、9日の10年債利回りは0.060%、20年債利回りは0.555%、30年債利回りは0.700%に上昇した。日銀は10時10分に日銀の国債買入をオファーしたが通常の買入であり、一部に期待もあったようである指し値オペではなかった。

10年債利回りを日銀はゼロ近傍に誘導するとしているが、下限がマイナス0.1%あたりであれば上限はプラス0.1%あたりと予想され、そこまでの上昇とはなっていない。日銀が警戒するのはひとまず10年債利回りでプラス0.1%以上ではなかろうか。超長期債の利回り上昇に対して、超長期債の指し値オペも行うことがあるのか。操作対象が短期金利と長期金利としているだけに、超長期の金利までも操作してくるのかはなかなか興味深いところでもある。いずれにしても日本の長期金利の上昇は欧米の長期金利の上昇と比較すれば、ゆっくりとしたものとならざるを得ない。この意味では日銀のイールドカーブコントロールは今のところ効いているという見方もできる。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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