医療情報に関わるメディアは「覚悟」を - 問われる検索結果の信頼性

Googleで「ジカ熱」を検索すると、Googleの独自コンテンツが表示される。

特定のキュレーションメディアの記事が、ここ最近、さまざまな分野で、急速に検索順位を上げていることが話題になっている。命に関わる病名の検索結果も例外ではない。

日本の5大がんは胃がん・大腸がん・肝臓がん・肺がん・乳房がん、3大血液がんは白血病・悪性リンパ腫・多発性骨髄腫だ。これらは当然、命に関わるがんであり、それを患ったり、疑われたりしたら、不安にもなるだろう。

不安になった人々がどうするか。インターネットが普及しきったこの時代には、検索をする。そこで、2016年9月10日時点での「多発性骨髄腫」という病名の検索結果の上位を確認してみよう。

2016年9月10日時点での「多発性骨髄腫」
2016年9月10日時点での「多発性骨髄腫」

クリックしてそれぞれの運営元を調査すると、検索結果の1番目は慶応大学医学部血液内科のサイト、2番目は『がん情報サービス』という国立がん研究センターがん対策情報センターのサイト、3番目は『welq』というDeNAが運営するキュレーションメディアである。

※キュレーションメディアとは、“ウェブ上のコンテンツを、ある特定のテーマや切り口で読みやすくまとめ、編集・共有・公開するサービスやウェブサイトの総称”(小学館デジタル大辞泉より)

1番目と2番目については、運営元により、一定以上の情報の信頼性が自明だ。3番目のwelqはどうなのか、引き続き調査してみる。welqは昨年10月に提供を開始しており、2016年7月にはスマホユーザーが600万人を超え、直近3カ月で2倍以上増加したらしい。

参考:スマホからの「welq(ウェルク)」の利用者が急増し631万人に ~ニールセン、特化型キュレーションメディアの利用状況を発表~

welqの記事『多発性骨髄腫ってがん?骨の痛みや腰痛が現れる?進行度と治療法を解説』の執筆者はjonasanという人物。アイコンの画像・自己紹介はない。

当該ページよりキャプチャ
当該ページよりキャプチャ

念のため執筆者紹介のページに遷移しても、おそらくはプロフィールが設定されていない場合に表示されるのであろう、定型の文章が表示されているだけだった。

当該ページよりキャプチャ
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著者のプロフィールがなければ、何を元にこの記事の信頼性を判断すればいいのだろうか。再度、念のため記事を最後まで確認すると、記事の末尾に下記のような記載を発見した。

当該ページよりキャプチャ
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当社は、この記事の情報及びこの情報を用いて行う利用者の判断について、正確性、完全性、有益性、特定目的への適合性、その他一切について責任を負うものではありません。この記事の情報を用いて行う行動に関する判断・決定は、利用者ご自身の責任において行っていただきますようお願いいたします。

出典:多発性骨髄腫ってがん?骨の痛みや腰痛が現れる?進行度と治療法を解説 - welq

welqの運営企業はこの情報の信頼性を保証しないらしい。しかし、著者が誰かはわからない。非常に専門的であり、命に関わる情報を取り扱ってはいるが、信頼できるかどうかはその内容をもって利用者が判断するしかない。

welqの記事は、前述した5大がんのうち、「胃がん」の検索結果で1位、「乳がん」で5位、「肝臓がん」で3位だ。執筆者はすべて匿名で顔写真はなし、プロフィールはそれぞれ「薬剤師」「記載なし」「元看護師」となっている。

3大血液がんでは、「白血病」の検索結果で3位(執筆者は匿名・職業の記載なし)、「悪性リンパ腫」で1位(執筆者は実名らしき名前・看護師との記載あり)。悪性リンパ腫の記事については、記事内の出典元のリンクの多くが現時点では切れていた。

これらの病名は、すべて月間数万回の検索ボリュームがあるキーワードだ。実際、「乳がん」の記事は今月頭が最終更新で、すでに累計100万以上のPVがある。のべにして100万人以上が、執筆者が匿名で、プロフィールもない医療情報の記事を閲覧していることになる。

話を戻そう。「多発性骨髄腫」の検索結果の第4位はWikipediaで、第5位は『がんプロ』というサイトだ。検索結果は上位以外はほとんどクリックされることがない。実質的に、ここまで紹介したサイトが人の目に触れるサイトと言っていいだろう。

では、何が問題なのか。まずは、検索結果に、執筆者の名前・職業などが全く明らかになっていない、それでいて命に関わる医療情報が掲載されている場合があることだ。文責という言葉があるように、発信には責任が伴う。

さらに、その情報を掲載しているメディアが、掲載責任を放棄していることだ。万が一のことがあれば、法のもとでその責任を問われることになるだろう。しかし、万が一のことがあってからでは取り返しがつかないのが医療情報だと、私は思う。

医療従事者に専門教育が必要なのは、人命への責任があるからだ。誰だって、何者かわからない相手にメスを入れられたり、注射針を刺されたりしたくはないだろう。そして、発信もまた、メスや注射針と何ら変わらない凶器になり得るのではないか。

「“がん放置理論”を信じて、せっかく早期で発見できたがんを進行がんにしてしまう患者が後を絶たない」という医師の訴えもある。このように、誤った理解に基づく行動は、医療の現場においては人の命を奪うことがある。

参考:近藤理論を放置してはいけない - 日経メディカル

キュレーションサイトでは、発信者が気軽に参入できることも、この仕組みが流行した理由だろう。しかし、こと医療においては、自分の発信が人の命を奪うかもしれない、という覚悟があるだろうか。それは本来、どんな発信でも同じことなのであるが。

一方で、組織や所属などが明らかになっている情報についても、再考の余地はまだまだある。例えば検索結果の5番目の『がんプロ』は、字面だけ見ればアフィリエイトや広告収入が目的の非専門家運営のサイトと見分けがつかない。

しかし実際には、“がんプロ”というのは“北陸高度がんプロチーム養成基盤形成プラン”の略で、北陸地区における医科系4大学(金沢大学、富山大学、福井大学、金沢医科大学)、看護系1大学(石川県立看護大学)より構成されているそうだ。

また、そもそも医療の専門家が発信する情報には、メディアの専門家ではないがために、わかりにくい・つまらない場合が散見される。医療の専門家側は、インターネットの普及に、まだまだ対応できていないと言える。

医療の専門家とメディアの専門家が組んだ医療メディアもポツポツと耳に入るが、未だにこれといったものがない。医師の監修を謳ったメディアでも、記事のクオリティーが粗雑であるという指摘もある。

そんな中で、キュレーションという仕組みが“読みやすくまとめ、編集・共有・公開する”という本来の目的を果たしていれば、医療者側と検索ユーザーとの橋渡しをする存在になることもできたはずだ。

しかし、前述のサイトのようにメディアとして成功するためには、場合によっては1日100本以上の記事を更新し続けなければならず、メディアとして信頼性を担保するようなルールを遵守できないということだろう。

ただし、そこで扱われるのは人の命に関わる医療情報である。特にがんのような病気について言えば、1PVは1人の命と同義なのだ。発信する側の人間は、そのことを常に心に留めておくべきではないだろうか。

最後に、この記事のアイキャッチにしたのは、2016年9月10日現在の「ジカ熱」の検索結果である。このように、特定の病気に関しては、Googleが独自のコンテンツを表示することもある(PCでは右サイドに常時表示、スマホではトップ表示)。

検索結果を司るGoogleが、医療のような特定の分野の検索結果について、独自のコンテンツ提供を推し進めていくのであれば、このような問題は、いずれ一定の解決を迎えるのかも知れない。しかし、繰り返しになるが、何かが起きてからでは取り返しがつかないのだ。