Yahoo!ニュース

"お騒がせ者"ジョン・マカフィーとインテルが商標問題で訴訟沙汰に

栗原潔弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授
(写真:Splash/アフロ)

ジョン・マカフィーと言えば、アンチウィルスソフトウェアのパイオニア、マカフィー社創業者として有名であり、米国外居住中に殺人容疑で指名手配されたり、米大統領選に立候補しようとしたり、WhatsAppの暗号メッセージを解読したと主張したり等のお騒がせ者(というレベルを超えていますが)としても知られています。

そのマカフィー氏が商標権問題でインテルを訴えたようです(参照記事)。

ご存じのとおり、マカフィー社は2010年にインテルに買収されています。マカフィー氏はマカフィー社の経営からは完全に身を引きましたが、その後も自分の会社をいくつか経営していました。そのひとつが、D-Vasiveというアンチスパイウェアの会社です。今年の5月に、MGT Capital Investmentという投資会社がこのD-Vasive社を買収すると共にマカフィー氏をCEOとして迎え、社名をJohn McAfee Global Technologiesに変更したのですが、これに対して7月にインテルが商標権侵害であるとの警告書を送ったようです。

インテルはアンチウイルス事業を売却予定とも伝えられており、売却価格を少しでも高めるために「マカフィー」の商標と紛らわしいケースを排除したいと考えたのかもしれません。しかし、John McAfeeは本名です(まったくジャンル違いですが能年玲奈→「のん」事件を思いだしてしまいます)。

これに対して、ジョン・マカフィー氏側が権利侵害がないことの確認を求めたのが今回の訴訟です。本件の訴状がScribdにアップされています(米国はこういう時に訴訟書類が入手しやすくてよいですね)。

米国連邦商標法では(日本と同様に)商標権は「当該当事者と関係を有するものの個人名の使用」には原則及ばないとされていますので、結局、当事者間の合意内容次第ということになるでしょう。訴状によると、契約において、マカフィー氏は自分の氏名に関する権利を譲渡したり、非競争を約束したりはいっさいしていないようです。

訴状を読む限りマカフィー氏に分がありそうですが、当事者間の合意内容に影響される部分が大きいので訴訟の成行は予測しにくいです(裁判になれば証拠開示手続により内部資料やメールログが出てきますので)。ただし、確認訴訟なので仮にマカフィー氏側が勝訴したところで、巨額の賠償金とか差止めといったことにはなりません。John McAfee Global Technologiesの名前が継続使用できるようになるというだけの話です。

弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授

日本IBM ガートナージャパンを経て2005年より現職、弁理士業務と知財/先進ITのコンサルティング業務に従事 『ライフサイクル・イノベーション』等ビジネス系書籍の翻訳経験多数 スタートアップ企業や個人発明家の方を中心にIT関連特許・商標登録出願のご相談に対応しています お仕事のお問い合わせ・ご依頼は http://www.techvisor.jp/blog/contact または info[at]techvisor.jp から 【お知らせ】YouTube「弁理士栗原潔の知財情報チャンネル」で知財の入門情報発信中です

栗原潔のIT特許分析レポート

税込880円/月初月無料投稿頻度:週1回程度(不定期)

日米の情報通信技術関連の要注目特許を原則毎週1件ピックアップし、エンジニア、IT業界アナリストの経験を持つ弁理士が解説します。知財専門家だけでなく一般技術者の方にとってもわかりやすい解説を心がけます。特に、訴訟に関連した特許やGAFA等の米国ビッグプレイヤーによる特許を中心に取り上げていく予定です。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

栗原潔の最近の記事