ASKAの未発表曲ネタばらし問題について著作権法的に検討する

(写真:Motoo Naka/アフロ)

覚醒剤取締法違反の疑いで逮捕されたASKAさんの未発表曲の音源をテレビ番組で流してしまった件が炎上しています(参照記事)。

上記記事をひと言でまとめると、未発表音源をテレビで公開してしまうのは、著作者人格権のうちの公表権(著作権法18条1項)の侵害にあたるということです。なお、公表権に加えて著作財産権(公衆送信権等)の侵害にもなり得ます。

18条1項 著作者は、その著作物でまだ公表されていないもの(その同意を得ないで公表された著作物を含む。以下この条において同じ。)を公衆に提供し、又は提示する権利を有する(後略)

上記記事でだいたい言い尽くされているのですが、敢えて重箱の隅をつついてみます。

このニュースを聞いたときにASKAさんがJASRACに作品届を出していたらどうなるのかなの思った(著作権を譲渡すると公表に同意したと推定されます(18条2項))のですが、今回勝手に公表された音源はまだ歌詞も付いてないデモ音源だったようなので、その可能性は排除してよさそうです。(追記:JASRACへの著作権移転は作品届に関係なく創作と同時に自動的に発生するのではとのコメントをfbでいただきました。仮にそうだとしてもCDで発表する予定の音源を先に勝手に放送で使うことは公表権の侵害にあたるでしょう(18条2項は推定規定であって権利者による反論は可能です)。

権利制限規定にもついて見てみます。

引用はどうでしょうか?

32条1項 公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。

引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものかどうかの判断以前に「公表された著作物」となっていることから未公表の著作物は正当な引用の対象ではないことがわかります。

時事の事件の報道のための利用はどうでしょうか?

41条 写真、映画、放送その他の方法によつて時事の事件を報道する場合には、当該事件を構成し、又は当該事件の過程において見られ、若しくは聞かれる著作物は、報道の目的上正当な範囲内において、複製し、及び当該事件の報道に伴つて利用することができる。

この規定は公表済作品に限定されていません。問題はこの未発表楽曲が「当該事件を構成し」「報道の目的上正当な範囲内」にあるかどうかです。「仮に覚醒剤を使用していたとしてもこのようなすばらしい楽曲を作れるのだ」ということを報道する価値があるという主張は成り立つかもしれません。

とは言え、50条にわざわざ注意規定を置いているように、これらの規定は著作者人格権には関係ありませんので、結局、ASKA氏の公表権を侵害するという結論は変わりありません。

第50条 この款の規定(栗原注:著作権制限規定のこと)は、著作者人格権に影響を及ぼすものと解釈してはならない。

ちなみに、41条の規定によって未公表の作品が報道されてOKなケースがあり得るのかとちょっと考えてみたのですが、たとえば、著名な画家が作品を制作中に亡くなって、その作品を報道で紹介する場合がそれにあたるのではと思いました(本人は亡くなっているので公表権はある程度制限されます)。

未発表作品の勝手な公表は、日本はもとより、著作権侵害行為の刑事罰が比較的控えめの米国で行なったとしても刑事罰対象となる行為です。法律の話以前に社会通念的にも許されない行為という意識が強いのではないでしょうか?タクシー車内の映像の件もそうですが、警察に逮捕された人には何をしてもよいというマスメディアの"常識"もそろそろ変わって良い時期だと思います。