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ニースのトラック・テロはIS支持者テロを誘発する ~テロ拡散を少しでも止める方法とは?

黒井文太郎軍事ジャーナリスト
ニースのテロを受けてテレビ演説するオランド大統領(フランス大統領府)

車を使った無差別殺戮

フランス南部の観光都市ニースで、革命記念日祝賀の花火大会をみている群衆に、ひとりの男が発砲し、そのまま大型トラックで突っ込んで80人以上が殺害されるという事件が発生しました。

本稿執筆時点で犯人の身元および犯行動機は不明ですが、車内に「ニース在住の31歳のチュニジア・フランス二重国籍者」のIDが残されていたとの報道があります(※追記:その後、フランス居住許可を得たチュニジア人であることが確認)。自殺覚悟の犯行ですし、身元などはいずれ判明しますから、あえてわざわざ身元偽装する意味はあまりないので、本人である可能性が高いでしょう(あるいは、盗難車で、もともとの所有者のIDである可能性があります。ただし、現時点でいくつかの報道機関が、IDと死体の風貌が一致するらしいとの情報も伝えています)。(※追記:本人であることが確認)

あくまで未確認ですが、そうなると犯人がイスラム過激思想の持ち主である可能性が出てきます。今回の犯行は単独犯ですが、銃の他に車内には爆弾や手榴弾などもあったということなので、それなりに計画されたテロだったと思われます(その後、短銃のみ本物で、ライフルは偽物、手榴弾は使用できないものであることが確認)。

ただ、爆弾があったからといって、組織的な犯行とは断定できません。また、今回の犯行は、場所と状況が検討された計画性は認められますが、行為自体はそれほど高度なものではないので、戦闘訓練を受けた人物によるものとも断定できません。

状況的には「IS支持者の現地在住の単独犯」の可能性が高いですが、いずれにせよ現時点では動機は未確認です。

テロがテロを誘発する!

ただし、仮にIS支持者のテロではなかったとしても、今回の事件が世界中で、IS支持者によるテロを誘発することは確実です。とくに武器を入手しなくても、彼らが「十字軍」と見なして敵視する国々の住民(そこには「十字軍の側に立っている」と彼らが考える、現地で普通に暮らしているイスラム教徒も含みます)をたくさん殺せることを示したからです。

IS支持者のテロ志願者は、とにかくISが呼びかけるジハードに参加したいと考えています。彼らにとって、より多くの「敵」を殺害することが、ジハードの価値が高い行為になります。

たとえば、世界のイスラム過激派系のネット情報をウォッチしている米シンクタンク「SITEインテリジェンス・グループ」はすでに「親IS系アカウントがニースでのテロを賞賛」している例を発見しています(※追記:その後、ISが「実行者はISの影響下にあるIS戦士」と主張)。

車で群衆に突っ込む、地下鉄車内で放火する、繁華街やリゾート地で人々をナイフで襲う・・・こういった誰でも手軽に出来る通り魔的犯行が、これから各地で実行される可能性が高くなっています。

大流行しているテロを少しでも減らすためには

現在、IS支持者によるテロは大流行期に入っており、テロがテロを誘発する状況になっています。各国の治安・情報当局が監視・追跡しているIS系ネットワークはともかく、世界各地に潜伏する個人や少人数の仲間内グループによるテロを事前に察知し、防止することは現実には非常に困難です。ですから、今後もこうしたテロは世界各地で続発します。

では、そんなテロの連鎖を少しでも弱体化させるために、どうすればいいのでしょうか。

簡潔に列記します。

1 治安・情報当局が各国のイスラム過激派人脈への監視を強める

2 各国警備当局がソフトターゲットでも狙われる危険の高そうな場所の警備を強化する

以上2点は、言うまでもないことです。

3 イラクとシリアでISを弱体化させる軍事作戦を強化する

「ISは宗教で繋がる思想集団なので、一部の地域で壊滅させても無意味だ」という言説を散見しますが、そんなことはありません。テロリズムには流行があり、熱情(狂気)がテロを伝播させます。

今のISシンパのテロの拡散は、明らかに2014年にISがシリアとイラクで突然、広大な地域を支配したことが原動力になっています。イスラム過激思想にかぶれた若者たちに、イスラム国家の建設と拡大が現実に可能であり、自分もその革命運動に参加できると錯覚させたからです。

ISのホームランドであるイラクとシリアで、ISがもとのような「林立する辺境の弱小ゲリラのひとつ」に落ちぶれれば、イスラム革命運動のリアリティはやがては色褪せ、テロの熱情はそう長く続きません。

4 イラク、シリア、イエメン、リビアの民主化・安定化を支援する

IS支持者はもちろんイスラム国家建設が望みですが、イラクやシリアなどでスンニ派の同胞が虐殺されていることへの怒りもあります。これらの地域では実際、イラクのシーア政権とシーア派民兵、シリアのアサド独裁政権などに一般住民が虐殺され続けており、その状況を放置すれば、それに対するレジスタンスであるスンニ派の過激派はいつまでも勢力を温存することになります。

この両国での民主化は、イスラム過激派を抑える必須条件です。シリアのアサド政権は打倒されなければなりませんし、イラクではスンニ派住民をシーア派による弾圧から守るしくみを作らなければなりません。

それに加えて、イエメンやリビアのよう無政府状態の国においても、混乱に乗じて勢力を伸ばしているIS連携組織を弱体化させるには、政治的な安定は必須であり、国際社会はそれを支援することが望まれます。

5 「イスラム社会」と「過激派」を分断する

イスラム社会には常にある程度の割合で過激派は存在しますが、彼らがイスラム社会の中で勢力を拡大しないように、一般のイスラム社会をあくまで反テロ側に置き、過激派だけを孤立化させなければなりません。そのため、欧米社会・国際社会におけるイスラムフォビア(イスラム恐怖による差別)を拡大させないことが重要です。

孤立化した過激派は一時的には、よりラジカルになってテロ行為にはしりますが、やがては疲弊し、分裂し、沈静化に向います。それよりもやはり過激思想がイスラム社会内部のムーブメントになるほうが、害は格段に大きいといえます。

繰り返しますが、イスラム過激派のテロは大流行期であり、しばらくはなくなりません。しかし、放置は論外です。

以上のような対応が必要です。そして、以上の対応は、どれも全部を、同時進行で実施していく必要があります。

軍事ジャーナリスト

1963年、福島県いわき市生まれ。横浜市立大学卒業後、(株)講談社入社。週刊誌編集者を経て退職。フォトジャーナリスト(紛争地域専門)、月刊『軍事研究』特約記者、『ワールド・インテリジェンス』編集長などを経て軍事ジャーナリスト。ニューヨーク、モスクワ、カイロを拠点に海外取材多数。専門分野はインテリジェンス、テロ、国際紛争、日本の安全保障、北朝鮮情勢、中東情勢、サイバー戦、旧軍特務機関など。著書多数。

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