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駅前再開発と商店街

前屋毅フリージャーナリスト

■時代に取り残されたような商店街

駅前再開発が必ずしも商店街の活性化につながるわけではないようだ。着るものを最新ファッションにしたからといって、中身が同じでは、簡単に見抜かれてしまう。

東京都心から1時間ちょっとほどの駅、といっても東京都内ではなく、すでに東京都に隣接する県にふくまれる。その駅前の再開発で最近、新しい商業ビルが誕生したというので出かけてみた。

最近の再開発による、その駅前ビルばかりが目立つ地域なのかと想像していたのだが、みごとに裏切られた。近くには百貨店もあり、すでに商業施設がはいった立派な駅ビルもある。大学も誘致されているそうで、駅の利用者もかなり多い。こんなところに新たな再開発ビルが必要なのか、とおもわせるロケーションなのだ。

その新しい再開発ビルは、すでに存在する駅ビルのちょっと奥にある。奥といっても、雨が降っても駅の改札から濡れずに行くことができる。かつては、地元住民の1人によれば「時代に取り残されたような一画」だったそうだ。その面影は、再開発の対象からはずれて残った商店街の一部から見てとれる。飲食店や文房具店など、「昔ながら」と言えば聞こえはいいが、古いままに「ただ存在している」という印象の店が並んでいる。

その商店街を歩く人も少なくはないのだが、店にはいっていく姿はほとんど見かけない。駅へ向かうか、駅から帰ってくるような人ばかりなのだ。一言でいえば、「活気のない商店街」でしかない。再開発の対象になった商店街も、きっと同じような風情だったにちがいない。だからこそ、再開発という流れになったのだろう。

■新しくなっても変わらない商店街

再開発によって新たに建った商業ビルは2棟から構成されている。一方には、大型スーパーマーケットからファッション店、本屋にフィットネスクラブと、それなりの充実ぶりである。しかし、どの店も有名どころ、別の表現を使えば「どこにでもある店」ばかりだ。

考えてみれば当然で、駅前の立地となれば、テナント料もかなりのものをとられるにちがいない。そうなれば、資本力のあるところでなければ出店はむずかしい。そうした資本力のあるところといえば、すでに成功したといわれている有名どころにならざるをえない。

そのためか、新しい商業施設であるにもかかわらず、「どこにでもある商業施設」になってしまっている。見かけはピカピカでも新鮮味がない。ここで買い物するくらいなら、電車に乗って都心に行ったほうが、おもしろい店に出会えそうだ。ましてや、この商業施設を目的に、電車に乗って外からやってくる人がいるとは、とうていおもえない。

もう一方のビルは、低層部分が商業施設で、上の部分が住宅になっている。賃貸と分譲があり、「分譲は販売開始から2、3日で完売した」(地元住民)という人気ぶりだったらしい。

なにしろ、改札口まで3分、濡れずに行けるのだ。都心部への通勤者にとっては絶好のロケーションであることはいうまでもない。大型スーパーマーケットにも濡れずに行けるのだから、便利このうえない。

もちろん、そういうロケーションだから分譲価格も安いはずがない。それなりの収入レベルの人たちが入居しているのだろう。そういう人たちにとって、「どこにでもある商商業施設」が魅力的とはおもえない。

その住宅のある棟の低層部分が前述のように商業施設になるが、ここに再開発前の商店街にあった店がはいっている。隣の棟が軽薄なピカピカさなのに比べて、こちらは、「どんよりとした雰囲気」につつまれている。

もちろんビルそのものは新しいのだから、店舗も新しいのだが、その新しいところに古いままの店を押し込んだ、としか思えない雰囲気なのだ。入り口にも窓のディスプレイにも工夫らしいものは見受けられず、殺風景である。

当然、店が混んでいるということはない。隣の棟と比べれば、徘徊している人の数は圧倒的に少ない。わずか数メートルの間隔でしかないのに、高い壁で遮られているかのような印象まで受けてしまう。隣のピカピカさが、なおさら「どんより」を強調してしまっているのかもしれない。

つまり、新しいビルに移ったにもかかわらず、ここは、あいかわらず「時代に取り残されたような一画」なのである。入れ物だけ新しくしても、商店街の活性化にはつながらないことの典型例を見ているような気分だ。

再開発による商店街の活性化を目指すのなら、入れ物だけでなく中身そのものが新しく魅力的にならなければ絶対に成功しない。変わる意欲がないのなら、意欲のある新規の店を取り入れていく新陳代謝がなければ、商店街としての活気にはつながっていかないはずだ。商店街の活性化で優先しなければならないものは、新しい入れ物ではなく、活性化させようという意欲と工夫である。それを、完成したばかりの再開発ビルの商業施設を見ていて実感させられた。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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